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綿貫碧(わたぬき あおい)6-6
三沢の言いたい事もわかるが、自分も特に変な事を言っているわけではない。しかし、三沢は決して理解をしないであろう。これ以上話しても無駄だと思って、苦笑いをした。
「でも、男の娘っていうんだっけ。そういうのもいいね。下着とか買いに行こうか。何か考えてたら、楽しくなってきた」
「いや、そこまで求めていません」
下らない話をしていると、注文した料理が届いた。綿貫は会話をやめてハンバーグを口にいれると、三沢が笑った。
「美味しい?」
「美味しいです。ハンバーグに外れなし」
「マックとかは行った事あるの?」
「え? あ、はい。さすがにありますけど、でも、そんなにはないです。小遣いで行くには高いですから」
三沢は自分が食べるのも忘れたように、ニコニコ笑っている。
「やりたかった事、やったこと無い事、色々とやっていこう」
綿貫はその言葉に、心が温かくなるような感覚を覚えたが、照れくさくて視線をハンバーグにやった。
「そんなのいいですよ。三沢さん、マックとかファミレスとか、好きじゃないでしょ」
「好きじゃないけど、嫌いでもないよ」
「じゃあ、無理しないでいいですよ。前に言ってたじゃないですか。お金持ってるのに、安い物買いたくないって」
「何言ってんの。それ意味違うよ。ほんと、あおちゃん馬鹿なんだから」
確かに自分は馬鹿だが、よくもまぁ、こう、人の事をバカバカと言えるな、と綿貫は少しむっとした。
「怒ったの?」
三沢は綿貫の目を覗き込んでくると、綿貫の手に、自分の手を重ねてきた。
「だってさ、あおちゃんは何一つわかってないんだもん。俺はさー、金稼ぐのは、美味しいご飯とか、高い物とか、そういうのが欲しいからじゃないの。俺が欲しいのは、あおちゃんの笑顔。あおちゃんが笑ってくれるんだったら、コンビニでおにぎりとコーヒー牛乳だけでも良いんだよ」
綿貫は三沢の言った言葉に、不覚にも涙がじわりと滲んでくる。何でこんな言葉を言うのだ。どこまで本気なのだ。
いや、信じなければダメだ。信じようと、そう決めたでは無いかと思い、三沢に笑って見せた。
「ありがとうございます。凄く、嬉しいです」
三沢が綿貫の言葉に少し驚いた顔をすると、綿貫の手を親指で撫でた。
「初めて信じてくれたね。俺も嬉しい」
「はい」
三沢の言葉に綿貫は、全てが奪われていく、全てが吸い込まれていくと思いながら、もう一度ありがとうございます、と呟いた。
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