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綿貫碧(わたぬき あおい)6-8
「何かあった?」
「何も」
「あまりふらついたらダメだよ。あおちゃん可愛いから」
「はいはい」
綿貫は適当に応えると、先ほど買ったスマホケースを手に取った。
「お昼、食べた?」
「はい」
「これからどっか行く?」
「いえ、暑いから嫌です」
「もー、あおちゃん、若いのにインドア」
三沢が笑いながらソファに座ると、自分もその隣に座り、プレゼントを差し出した。
「お誕生日、おめでとうございます」
「え?」
「今日、誕生日ですよね」
三沢は差し出されたプレゼントを受け取ったが、なんとも言えない表情をした。
あれ、思っていたような反応と違う。綿貫はそう思って、少し焦った。とても喜んでいるようには思えなかったのだ。
三沢は無言のまま包装を開くと、憮然とした表情でスマホケースをじっと見つめている。綿貫は間が持たないと思って、まくし立てるように言葉を発した。
「あ、ごめんなさい。気に入らなかった? そうですよね。安いし。でも、ケーキもありますよ。三沢さんが好きなケーキ屋さんで買いました。丸いのにして貰った」
「お金……」
「え?」
「お金、どうしたの? 上げてないよね」
三沢が怒っている理由に気がつき、綿貫は慌てて首を振った。
「変な金じゃないよ。バイトしたんだ」
「ふーん。何のバイト」
「ポスティングだから、誰にも会わないし、変な事にもなってない」
「聞いてないけど」
「驚かそうと思って……」
三沢はスマホケースをポンとテーブルに放り投げると、綿貫の顔をじっと見てきた。その目は仄暗い。
「だからさー、何であおちゃんはこんなに馬鹿なの。ポスティングなんて、危ない目に合う事も多いんだよ。俺は別にこんなの欲しくないよ」
「そんな言い方しなくても! 俺はただ、三沢さんの誕生日に何かあげたかっただけで……」
「だーかーらー! 俺はさ、あおちゃんが笑ってくれればそれでいいの。プレゼントなんていらないよ。あおちゃんが危険な目にあったら元も子もないだろ」
綿貫は、ポスティングをしていた時の事を思い出していた。確かに、嫌な目にも何度かあった。ポストに入れるなと怒鳴られた事もある。暑い中歩くのも辛かった。それでも、プレゼントを渡した時に三沢が喜んでくれるだろうと、それだけを楽しみに頑張ったのだ。自己満足なのだろうが、それでもこんな事言われるとは思っていなかった。
「分かったよ。返せよ! 変な物プレゼントしてスイマセンでした!」
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