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綿貫碧(わたぬき あおい)6-9

 テーブルに置かれたスマホケースを手に取ろうとすると、その手を三沢が掴んだ。  綿貫が三沢の顔を見ると、三沢がじっと綿貫の目を見てきた。それに、綿貫はじわりと涙が湧いてきて、泣くな、と自分に言い聞かせた。  何でこんな屑、好きなんだろう。綿貫は三沢の整った顔を見ながら改めて思う。相手は男であるし、性格だって滅茶苦茶だ。閉鎖された空間で優しくされたから好きになってしまったのか。  嫌いになりたい。しかし、もう今更無理だ。三沢の手を振り払おうと思ったが、三沢の手は力強くて、それは無理であった。 「ごめん、ありがとう」  三沢が愁傷な顔をするのに珍しいと思いながら、綿貫はスマホケースを離さなかった。 「そんな事、思ってないくせに」 「そうだね」  三沢はそう言うと、綿貫の手首を離した。 「普通なら、喜ぶんだろうね。でも、俺にはわからない」 「わからない?」 「蒼士に言われた事があるよ。俺は人の心が分からないって。その通りだよね。俺は、人の心が分からない。あおちゃんがどんな思いで、これをくれたのかもわからない。いや、わかってるよ。頭ではわかってる。でも、本当の意味でわかってないんだろうね」  三沢が手を差し出してくるので、綿貫は結局スマホケースを三沢の手に渡して、三沢の隣に座った。 「そうですかね。三沢さんは、俺の考えている事よく分かってますよね。たまに、じゃなくてしょっちゅう怖くなります」 「そういうのとはちょっと違うかな。うーんそうだな。あおちゃんの気持ちが分かっても、それを受け取る受容器がぶっ壊れてるのかな。普通なら、自分の誕生日にバイトしたお金でプレゼント貰ったら愛を感じるよね。でも、俺は感じられない。だって、お金や物で表現する愛情なんて、本当か嘘かなんてわからないでしょ」  そんな物かと思ったが、綿貫は納得がいかない。現に三沢は綿貫に物ばかり与えるではないか。ならば、三沢は綿貫に対して愛情表現をしていないということになる。 「じゃあ、どうすれば感じることが出来るの」  憂鬱な気分のまま聞くと、三沢はニッコリと笑った。 「知りたい?」  知りたいけど知りたくない。綿貫はどう答えるか迷って、じっと三沢の顔を見た。目尻を下げて優しそうに目を緩めているが、瞳の奥はどこか寂しそうだった。冗談めかしているが、何故か愛情を欲しがる子どものようだと思い、思わず頷いた。  それに三沢は更に嬉しそうな顔をした。その目は、寂しげな色から、少し仄暗い色に変化した。  それを見て綿貫は、答えを間違ったかと思ったが、もう今更撤回は出来ない。ぐっと手を握って三沢の言葉を待った。 「じゃあ、今夜、教えてあげる。あおちゃんが嫌がるかと思ったから我慢してたんだ。でも、今日は俺の誕生日だし、いいよね」  綿貫は首を振ろうと思いながらも、結局は頷いた。また選択を間違っているのだろう。しかし、三沢の言葉に逆らう事など出来るはずはなく、受け入れるしかなかった。          

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