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綿貫碧(わたぬき あおい)6-10
「折角買ってきて貰ったし、ケーキ食べようか」
「はい」
綿貫は頷くと、冷蔵庫からケーキを出して、ダイニングテーブルに置いた。箱からケーキを取り出すと、白いクリームで綺麗に飾られた丸いケーキが出てくる。チョコレートのプレートには、「Happy Birthdayしゅうじ」と書かれていた。自分でお店にお願いしておきながら、子どもみたいでちょっと恥ずかしいと思い、顔を俯かせた。
「嬉しいね」
「え?」
「やっぱり嬉しいよ。さっきは本当にごめんね。大事な人に誕生日を祝って貰うのは嬉しいね」
大事な人という言葉に、先ほどまで抱いていた怒りや不安がすっと消え去り、綿貫は口元を緩めて笑った。
「ロウソク、18本立ちますかね」
「立つ立つ。一緒に立てようか」
三沢はそう言うと、袋に入っているロウソクを取り出し、バランスなど全く気にせず、ブスブスとケーキに挿していく。
「三沢さん、ちょ、酷いって」
笑いながら綿貫も負けずと挿していく。大きくもないケーキはロウソクだらけになってしまった。
「綺麗なケーキだったのに」
そういってケラケラと笑うと、三沢も笑いロウソクに火を点けた。
「歌、歌ってくれる?」
「嫌です」
きっぱりと断ると、三沢は不満そうにえーと言い、自分で歌を歌い始めた。音程がまるっきり外れているのに、綿貫は笑う。
「三沢さん、歌は下手くそ」
「酷いなー。でも、何でもかんでも与えられるよりも、出来ない事がある方が可愛げがあるでしょ」
「自分でそんな事言うような人は、全く可愛くありません」
「ハハ……」
三沢は笑うと、ローソクを指さした。
「消していい?」
「勿論。心の中で願いを言ってください」
「そうだね。じゃあ、あおちゃんとずっと一緒にいれらますように」
三沢はそう言ってロウソクの火を消した。
「な、何言ってんですか。第一、願いは口にしたら叶わないんですよ」
「そう? 口に出来ないような中途半端な願いごとなんて、クソだよ」
「三沢さんらしいな」
三沢がケーキからロウソクを抜いて、ケーキを切ってくれた。それを口にしながら、三沢の顔をじっと見る。三沢が美味しそうにケーキを口にするのに心が温かくなった。自分が美味しそうに食べるのを、いつも三沢が喜んで見てくる気持ちが少し分かった気がした。
ケーキを食べ終わると、ダラダラと二人で過ごした。ソファに寝転がる三沢の頭をいつものように撫でながら、このままセックスしたいな、と思ったが、三沢が手を出してくる事はなかった。
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