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綿貫碧(わたぬき あおい)6-12
綿貫は三沢の顔を睨み付ける。
「三沢さん、俺に何をして欲しいんですか? あの人と寝て欲しいの? そういう性癖?俺は嫌だよ」
「まさか。約束したでしょ。あおちゃんは他の人と寝たらダメ」
「じゃあ、三沢さんが寝るの?」
震えた声で言いながら、その方が余程三沢らしいと思った。
「そう。あ、出てきたかな」
浴室から出てきたフユに笑いかけた三沢は、綿貫の手首を掴んでくる。
「二人とも、ベッドにおいでよ」
嫌がる綿貫を気にせず、三沢は無理矢理に綿貫を寝室に連れて行った。
「三人でやるの?」
フユが聞いてくるのに、三沢はにっこりと笑って首を振った。
「違うよ。フユ君は俺とやるの。この子は観客」
「そういう趣味なの? 若くて良い男なのに、末恐ろしいよ」
フユはそう言って笑うと、ベッドに座った。
「大学生? 親御さんのプレッシャーが凄くて大変だよね」
フユの落ち着いた声が響く。ゆったりとしたその声はどこか癒やしの色を含んでいた。しかし、三沢は全く意に介する様子はなかった。
「そういうのいいよ。話がしたいわけじゃないから」
フユはきょとんとした顔をした後、笑った。
「高い登録料払って、それでやるだけ? だったらそこら辺の売春婦捕まえればいいのに。遊び慣れてないのかな。分かってるだろうけど、僕は自分で納得して気に入った相手としか寝ないよ。まだ君の事をよく知らない」
「でも、シャワー浴びたよね」
「まぁそうだね。君は良い男だし、何よりこんな可愛い子もいたのが気になったから準備をしただけ。その気になるかもしれないからね。でも、僕は初めての客と寝る事は滅多にしないから」
綿貫はフユの言葉に安堵した。良く分からないが、フユはただの男娼ではないようだ。確かに、フユは一目見ただけで簡単に手を出せる男ではないというのがわかる。このまま、三沢と何もなければ良いと思った。
三沢は突っ立っている綿貫の顔を一瞥した後、フユに近づいて耳元でひそひそと何かを話しかけた。
三沢が話し終えると、フユは三沢の顔を見上げて笑った。
「病んでるね。まぁでも、そういうのも珍しくはないよ。そういう人も結構いる。いいよ。面白い目的だ。セックスしよう」
フユは楽しそうに笑いながらそう言うと、三沢に手を伸ばした。
「え?」
綿貫が声を上げると、三沢とフユが同時にこちらを見てくる。二つの綺麗な顔は、意地悪く笑っていた。それに綿貫は、惨めな気持ちになって俯いた。
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