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綿貫碧(わたぬき あおい)6-14
「おしいなぁ。そうじゃないんだ」
三沢は綿貫の額にキスをすると、優しく頬を撫でてきた。
「でも、そうなのかな。あおちゃんが俺のせいで傷ついてたら、凄くゾクゾクする。俺のせいで嫉妬している姿を見ると、愛されてるな、って実感できるんだ」
「は?」
本当に頭がおかしい。綿貫はそう思いながら、三沢の手をはらった。
「歪んでる。そんなの愛じゃない」
「そうなの? じゃあ何が愛?」
「え?」
「偉そうに言うけど、あおちゃんは人を愛した事あるの? 誰かに愛された事あるの?」
「そんな事……俺は凄くしゅうちゃんのこと、好きだったし、今は三沢さんが……」
最後まで言えなくて口をぐっと噤んだ。言って良い言葉か、悪い言葉か判断つかない。
「しゅうちゃんって、そんなのいつの話? 幻想じゃん」
三沢は馬鹿にするように鼻で笑った。
「あおちゃんの愛って、声を失って、ナイフで抉られるような痛みを感じながら誰かを愛した結果、報われずに泡になってでも誰かを思う事?」
「ちが……」
「そんなの、馬鹿馬鹿しい。今時小学生でもそんなこと思わないよ」
「わかってます。そんなの。俺だって、子どもの頃の話だ」
「嘘。今でも、そんな風に誰かを愛して、愛されたいくせに。でも、それでいいんじゃない。他人がどう思うかなんて、そんな事どうでもいいよ。俺は他人なんてどうでもいい。一般的な愛だなんて、俺には関係ない。ただ、俺はあおちゃんが望む愛があればそれでいい」
何を言い出すのだと思い、綿貫は眉根を寄せる。三沢の言いたい事が、分かるようで分からない。
「俺は三沢さんが言うとおりに馬鹿だから、何言ってるのかわからない」
「そう? じゃあよく考えて。俺はあおちゃんが俺のために嫉妬してくれるのが最高に嬉しいよ。でも、それだけじゃない。俺は、あおちゃんの望みを叶えたいんだ」
「俺が、三沢さんが寝取られるのが好きって事? さすがにそこまでMじゃない」
三沢はそれににっこりと笑うと、帰ろうか、と言った。
「この部屋で寝たくないでしょ」
「でも、高いんでしょ……」
「いいよ、帰ろう」
三沢はそう言うと、綿貫を連れて部屋を出て行き、チェックアウトをしてしまった。あの部屋で寝るのは嫌だが、いくら何でも勿体ないと思った。
「次の段階いかないとね」
タクシーの中で三沢がぽつりと呟いた。
「え?」
「あおちゃんを檻に閉じ込めるための方法。あおちゃんは俺の事なんて信じてないからね。甘い飴をあげてもすぐに吐き出しちゃう。だから、違う方法で行くしかない」
「何言ってるの? 何のこと?」
「何のことだろうね」
三沢は楽しそうに笑ったが、綿貫はその顔がどこか寂しそうに見えた。
「明日は別荘に移動しよう」
三沢の声が、タクシーの狭い空間で静かに反射した。
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