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綿貫碧(わたぬき あおい)7-2

 別荘にいる間、三沢とはセックスをしなかった。誘われてもする気にはとてもならなかった。そして寮に連れて帰られると、早々にセックスの準備を始めた三沢に、自分は一体何なのだとも思った。  バスはしばらく走ると、最寄りの駅に着いた。綿貫は運転手に御礼を言うと、バスを降り、コンビニエンスストアで東京に行くためにバスのチケットを購入する。  東京に行ってどうするのか。金もほとんどない。しかし、このまま三沢の元にいても仕方が無いと思って、バス停近くのベンチに座った。  どうやって金を稼ぐか。考えなければいけないが、考えるのが面倒だと思い、ぼうっとしていた。  離れてしまおうと思えば、悪い日々ではなかったと思える。自分なんかが随分といい目を見れた。三沢と一緒にいられただけでもありがたい。そもそも、自分は三沢のペットだ。それなのに、特別な感情を持ってしまったのがいけないのだ。空しくもあったが、そう思わないと、かえって辛かった。  そろそろバスの時間だ。東京につくのは20時くらいかと思いながら立ち上がると、急に両肩を掴まれて、ぐっと下に押された。  思わず再度椅子に座ってしまった綿貫は、全身が総毛立つ感覚を覚えた。 「三沢さん……」  振り返ると、そこには三沢がいる。三沢はにっこりと笑うと、綿貫の隣に座り、綿貫の手からバスのチケットを取り上げて破いた。  怒っているだろうと覗いてみた顔は、思っていたのとは違い仄暗い影は見せてはいない。大きくため息をついて破いたチケットを地面にばらまいただけだ。 「ポイ捨て、ダメですよ」 「そうだね」  しばらく沈黙が続く。綿貫が乗るはずのバスがバス停に到着するのをぼうっと見た。  バスはしばらく停車していたが、時間になると出発してしまい、取り残されてしまった綿貫は乗れなかった事に悔恨と安堵を同時に覚えた。 「行っちゃった」  綿貫が呟くと、三沢が頷いた。 「そうだね」 「そうですね」 「帰ろうか」  三沢の言葉に、綿貫は首を振った。 「嫌です。もう、三沢さんのペットは嫌だ」 「でも、パピーはやめられないよ」 「わかってます。だから、逃げるんです」 「そっか」 「そうです」 「でもさ、こんな目立つところに座ってさ、いくら馬鹿なあおちゃんでも、俺に見つかるって分かるでしょ。本当は俺に見つけて欲しかったんじゃないの」 「何言ってんですか」     

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