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綿貫碧(わたぬき あおい)7-3

 綿貫は答えながら、そうなのかもしれないと思った。何も考えず、ただ逃げたかったのは、考えたら逃げられないと思ったからだ。 「ごめんね。限界を超えちゃったかな」  三沢の長い指が綿貫の手に絡みついてくる。ふわりと三沢の匂いが漂ってきて、綿貫の体を柔らかく縛り付けていく。身動きが出来なくなると思った。 「もう、お終い。我が儘は言わないよ。もう、あおちゃん以外と寝たりしない。十分過ぎるくらいに貰ったからね」 「もういいよ。俺、本当に疲れた。そうやって、優しくした後に、酷い事して、俺を操って楽しんでる。俺も人間なんだよ。凄く疲れた。三沢さんのこと、もうやだ」 「そんな事言わないで」  ぎゅっと抱きしめられて、頭がクラクラとする。もうとっくに深く淀んだ沼の底にいるのだ。這い上がれない。それでも、溺れ死ぬのを待ついわれはない。 「もう、開放してよ」 「そんな事、出来るわけないの、分かってるよね。さぁ、行こう」  三沢に手を引かれて、結局は従ってしまう。何度も繰り返すこのやりとりに、いい加減三沢も疲れているはずだと思ったが、三沢の顔はどこか楽しそうであった。  連れて行かれたのは三沢の別荘だった。ベッドに座らされた綿貫は、水色のシーツに出来た皺をじっと見た。このシーツの色は三沢のお気に入りだ。綿貫の体液で色が変わるのが良いのだという。この顔で変態のなのだから手に負えないと、隣に座った三沢の顔をじっと見上げた。 「ごめんね。俺、やり過ぎたね。あおちゃんの嫉妬が堪らなくてさ、俺、愛されてるなって思ったんだよね。でも、もうお腹いっぱい。大丈夫。あおちゃんからの愛を感じられなくなった時以外は、もうあんな事しない。あおちゃんが俺を信じなくなった時以外は、あんな事しないよ」 「なにその、いい加減な感じ。そんなの、いくらでも、どうにでもなりますよね」 「そう? でもさ、俺もあおちゃんと一緒にいて気がついたんだよ。あおちゃんはただ優しくて、甘くして、それでも何も信じない。あおちゃんは何だかんだ言っても、痛みがないとダメなんだよ。何でだろうね。初めて知った愛情があの童話だったからかな。それとも、しゅうちゃんがそう教えたのかな」 「しゅうちゃんは、三沢さんとは違います」 「そうかな。でも、どっちにしろ、痛みを伴いながらしか、愛を感じられない。そうでしょ」 「人を、どMみたいに言わないでください」  三沢が何を言っているのか、意味が分からない。綿貫は三沢の顔を睨みつけたが、三沢は相変わらず楽しそうに笑っている。 「俺のせいなんだよね。それはわかってるけど、学園からの脱走は禁じられてるんだよ。特にクイーンの脱走は重罪だ」         

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