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綿貫碧(わたぬき あおい)8-1
しゅうちゃんが泣いている。綿貫は、今まで一度も泣いた事のないしゅうちゃんが泣いているのに驚いてしまい、何をすればいいのかわからずに、その場で固まっていた。
「どうしたの、しゅうちゃん。どこか痛いの? それとも、誰かに虐められた?」
綿貫の言葉に顔を上げたしゅうちゃんの泣き顔を見て、可哀想だと思うのと同時に、何故か凄く可愛いと思った。抱きしめてあげたいと思っていると、しゅうちゃんの姿がふいに変わった。
「……三沢さん?」
そこで綿貫は目を覚ました。
「おはよう、あおちゃん」
夢の中の三沢とは違い、いつものご機嫌な三沢の顔が視界に入ってきた。
「おはようございます」
綿貫は寝ぼけた頭のまま答えると、上半身を起こしてこちらを見てくる三沢の顔を、じっと見た。
頭が痛い。寝過ぎたのだろう。セックスして、飯を食って、寝て、セックスしてをずっと繰り返している。ろくにベッドの上からも動いていない。頭痛がするのも当たり前であろう。
「頭痛い……」
「水、飲みなよ」
三沢がペットボトルを渡してきたので、起き上がりそれを飲んだら少しだけ良くなった気がした。
変な夢を見たな、と綿貫は思った。余程三沢の見せた顔が印象的であったのだろう。一瞬だけ見た、あの泣きそうな顔。そして何故それが、しゅうちゃんの泣いている顔と重なったのか。
しゅうちゃんの泣いた顔など、一度も見た事はなかった。殴られようとも意地悪をされようとも、しゅうちゃんはいつも飄々としており、だからこそ皆に一目置かれていたのだ。何故、そんなしゅうちゃんと三沢が似ていると思ったのかなど、綿貫自身分からなかった。
「学校、行かなくていいんですか?」
二学期が始まってから何日経っているのか、綿貫には分からない。窓はシャッターで閉じられており、日の光はほとんど入らない。欲望の赴くままに行動をしているためか全く日付が分からず、たった数日しか経っていないように感じるし、何日も経っているようにも感じる。
「ちゃんと、お休みの連絡してるから大丈夫だよ」
そういえば、三沢は高校卒業後どうするのだろうか。頭が良いので、学校など行かなくても大丈夫なのだろうが、進路はどう考えているのだろうかと思った。
「三沢さん、高校卒業したらどうするんですか。大学行くんですよね。どこの大学に行くんですか」
「あぁ、大学ね、留学する予定」
「え?」
「日本より向こうの方が楽しそうでしょ」
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