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綿貫碧(わたぬき あおい)8-2

 三沢の言葉に、三沢の進路としてはピッタリだと思った。それと同時に、やはり三沢との関係は、三沢が高校を卒業するまでなのだと思った。三沢が何をどう言っても、結局はそれだけの関係だ。  三沢の言うとおり、三沢の言葉に偽りはないのかも知れない。しかしそれは期間限定の言葉だ。いずれ捨て去られる言葉なのだ。 「甲野君が羨ましい」  綿貫はぽつりと呟いた。  パピーなどになるべきではなかった。未だ小湊のパピーにならずに踏ん張っている甲野のように、拒絶し続ければ良かった。 「甲野君? あぁ、蒼士の子猫ちゃんね。どうしたの、突然」 「甲野君、凄いんです。小湊先輩にバイブ突っ込まれて、クラスの奴らの前で何回もイッて、恥かかされて、小湊先輩にあれだけ束縛されて、それでもさ、屈しないんです。何でって思う。パピーになれば楽なのにって」 「その話、知ってるよ。まさか蒼士がそこまでするなんて驚いた。良い趣味してるよね。俺、負けたって思ったよ。さすがに俺は、あおちゃんにそこまで出来ない」 「そういう事が言いたいんじゃないんです。馬鹿な奴だってことですよ。だけど、強い。考えられないくらいに強い。あいつ、最初の印象は、誰が見ても普通だって言うと思うんです。だけど、ずっと一緒にいるとさ、その真っ直ぐさに凄く苛立って、でも憧れる。多分、誰もが憧れると思います。そんな奴なんです。どうやったらあんな風になれるのかって思う。俺もあんな風に強かったら、こんなに悩まなかったのかな」  三沢は少し顔をしかめると、綿貫の手に自分の手を絡めてきた。 「やめてよ。あおちゃんがあんな頑固だったら困るよ」     

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