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綿貫碧(わたぬき あおい)8-10
「もう貸さないよ。ここは俺とあおちゃんの愛の巣になったの」
「ガチだな」
男達の笑い声が響く。早く終わってくれ。早く開放してくれと祈った。
「今日のもう一人の主役が来たね」
三沢の言葉に、甲野が来たのだとわかった。どうでもいいと言っておきながら、甲野にはこのみっともない姿を見られたくないと思った。
「な、何だよ、これ!」
甲野の声が響いた。驚いている声だ。甲野らしいと思った。
「騒がないで。まだ、ちーくんの番じゃないから邪魔しちゃだめ」
柔らかい、優しそうな声が聞こえる。きっと小湊の声だろう。
「俺の番って! それにあれ誰だよ!」
気づかないでくれ。綿貫は思ったが、その願いは空しく、小湊によって破られた。
「あれ? あれは三沢のパピー」
「三沢のパピーって、まさか……綿貫?」
しばらくの沈黙の後、誰かの気配を感じる。何をされるのかと戦慄《わなな》いたが、何もされることはなく、三沢の声が聞こえてきただけだった。
「何勝手しちゃってんの」
「これ、ほどいてください」
力強い声が響く。こんな時でも甲野らしいと思い、綿貫は思わず笑った。
「だーめ」
三沢が答える。どこか嬉しそうであった。
「ちょっと、蒼士くーん。お前の子猫ちゃん、どうにかしてよ」
「これ、綿貫だろ。あんたのパピーだ! 何やってんだ、ほどけよ!」
甲野の激高した声に、三沢は、吹き出して笑った。
「噂通りの子だね。気が強くて、引かない。あおちゃんはね、俺のパピーなの。だからどうしようと、俺の勝手」
「……っ! ……ふざけんな!」
甲野の怒りが見なくともわかった。真っ直ぐで強い。偽善ではなく、本気で自分の為に怒ってくれているのだろう。
そんなに怒らなくてもいいのに。これは俺が望んだ事だ。そんな事より自分の事を心配しろよ、と綿貫は思った。
「これ、外せよ! 何なんだよ、これ」
甲野の声が響く。縛られでもしたのだろうか。
「お仕置き」
小湊が言った。
「は?」
「あの子ね、新学期始まる前に寮から逃げ出したんだ。長期休みになると、そういうの増えて困るんだよね。寮からの脱走は、許されない。普通の生徒なら反省文とか、掃除とかの罰で住むけど、クイーンはそうはいかない。勿論、パピーもだ」
「お仕置きって、何? 何されるの」
「色々。クイーンの場合が基本的には輪姦かな。パピーの場合の罰はマスターが決めるけど、三沢はどうするんだろうね」
「ふざけんな、ふざけんな……! あんたら、人を何だと思ってんだよ」
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