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綿貫碧(わたぬき あおい)8-16

「まぁだからこそ、こんなに可愛いのに、まだ誰の物にもならなかったんだよね。きっとね、あおちゃんを好きだった子、沢山いたよ。でも、あおちゃんはこんなだからね。無視されたんだろうね。考えようによっては、幸運だったのかもね」 「俺、三沢さんが思うほどの人間じゃないですよ。そんな事より、マスターとパピーの決まりについて、もう一度考えたいんですけど」 「何を?」 「三沢さん、俺に他の人間と寝ない事って決めたじゃないですか。俺も、それ言いたい。三沢さん、浮気はしないでください」 「うーん。そうだね。でも、俺、そもそも浮気属性だからな」 「ふざけんな。何それ」  三沢は笑うと、綿貫の頭を撫でてきた。 「冗談だよ。分かった。その代わり、あおちゃんは俺に隠し事、ダメだよ」 「わかりました」  綿貫は取りあえず三沢が卒業するまで、三沢を自分だけの物に出来るのだと安堵した。 「また、下らない事考えてるでしょ」  三沢の言葉に、綿貫は苦笑した。まったく、何もかもばれている。怖い人だと思った。 「ねぇ、あおちゃん。あおちゃんはさ、誰からも愛されなかったんだよね。でも、俺が愛してあげるよ。人魚なんかよりももっと愛してあげる。人魚なんかよりも、沢山愛させてあげる。ううん、前にも言ったけど、愛とか好きだなんて生易しいもんじゃない。俺の思いはさ、そんな安っぽい物なんかじゃないよ。覚悟してね」 「はい……」 「ずっと檻に閉じ込めて愛してあげる。俺の全部を上げるから、あおちゃんの全部、ちょうだいね」 「まだ言うんですね。俺は、そんな愛情が欲しいわけじゃないです」 「そっか。でも、俺は欲しいな」 「そうですか」  綿貫は腰にまわされた三沢の腕をぎゅっと握りながら、ならば三沢の好きなようにさせようと思った。 「そういえば甲野君、どうなったんですか」  綿貫が甲野の名前を出すと、ぐっと腰に力が入った。怒っていると思った。 「三沢さん、寂しいなら、寂しいって言いなよ」 「え?」 「三沢さん、訳分からない人だけど、でも、俺、気がついちゃった。三沢さん、寂しいだけだよね。ただ、その寂しさを埋めるための手段が、普通とは違うんだ。そもそも、性格が悪いんですよ」  三沢がキョトンとした顔をした後、笑った。 「あおちゃん、言うねぇ。ほんと、あおちゃんが可愛いのは顔だけだよね。性格は可愛くない」 「そんなの知ってますよ」 「俺も知ってる。そんなあおちゃんだから、いいんだけどね」  三沢の言葉に、今度は綿貫が笑った。 「でも、本当にそうなのかもしれないね。今思えば、寂しいっていう、そんな単純な事だったのかもね」          

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