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綿貫碧(わたぬき あおい)9-2

 甲野は、別荘で輪姦された後、何があったのか、結局小湊のパピーになった。それから甲野の顔には、また天真爛漫な笑顔が戻ったのだ。  どこか穏やかで、そして幸せな色に包まれたその様子に、綿貫は更に惹かれていき、お互いどこか似ている境遇に、誰にも言えない心情を分かち合う事も増えていた。 「うーん、何て言うのかな。やっぱり俺達は子どもなんだよね。そうちゃんはここでは王様で、おれはそれに守られるお姫様だった。でも、それはこの学園だけの話だ。一歩外に出れば、何の力もない子どもなんだよね。何かあれば、一瞬で崩れちゃう」 「何それ。何があったんだよ」 「誰かがさ、俺達の色々な事、そうちゃんの親にばらした。それだけなら良かったけど、もっと複雑に色々あってさ、ほら、そうちゃんには未来があるだろ。俺なんかよりも立派な、輝く未来ってやつ。それは壊せないよな」 「何言ってんの。そんなの……」 「わかってるよ。そうちゃんがそれを望んでいない事も分かる。でも、やっぱり怖いんだよね。ずっと一緒にいるって約束したのにね、それ破っちゃった」 「一応、一年生の課程は修了したって証明してくれるんだって。だから、二年生から他の高校に転校するんだ。ほんと、この学園クソだよな。スキャンダル消すためなら、何でもする。クソの臭いを、香水をぶっかっけて消してるんだ。いつか、凄い事になりそうだよね。綿貫は、三沢さんと一緒に出て行くんだろ。正解だ」  そう言って綿貫は、ベッドから立ち上がり、荷造りを再開した。 「でも、気をつけて。俺達には何の保証もない。男同士で、子どもで、何の力もない」  甲野の言いたい事は分かっていた。それに加え、綿貫には肉親もいない。甲野は、三沢に頼りきるのは危険だと言いたいのだろう。 「うん。ありがとう。元気でね」 「綿貫も元気で」  甲野は綿貫の顔を見る事もなく、そう言った。しかし、甲野の目から涙が落ちたのを、綿貫は見逃さなかった。  一度溢れた涙は、堰を切ったように溢れてくる。次から次へと流れ出てくる涙は、朝日に光って、綺麗で悲しい。  綿貫は甲野の体をぎゅっと抱きしめた。甲野の体は震えている。何故か綿貫の目からも涙が溢れてきて、止まらなかった。  二人で泣いた。馬鹿みたいだ。馬鹿が二人で、ただ泣いた。  しばらくそうしていると、部屋の扉がノックされる。綿貫が甲野の体から離れると、もう一度だけ強く抱擁をした。 「ごめん。まだ早かった?」  食事から戻ってきた立川が、二人を見て言ったが、綿貫は首を振って部屋から出て行った。       綿貫はふざけるなと言いたかったが、甲野の顔を見てそれを言う事は出来なかった。どんな思いでそれを口にしているのか、考えるだけで胸が張り裂けそうだった。 「甲野君は、これからどうするの」     

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