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綿貫碧(わたぬき あおい)9-3
三沢の部屋に戻るために、甲野の寮から出て行くと、冷たい風が吹いた。帰りはやけに寒い。ガタガタと震える体を両腕で抱きしめながら、とぼとぼと歩いて帰る。
部屋の戻ると、先ほどと同じ位置に座っている三沢が両手を広げてくれた。
目が赤いのに気がついているのだろうが、何も聞かずに抱きしめてくれる。温かな体温に、綿貫は目を瞑って体が温まるのを待った。
そのままベッドに二人で横になる。三沢が身動きせずに抱きしめてくれるのに、綿貫も身動き一つせずに、体を丸めた。
三沢も辛いのだろうか。小湊は三沢が唯一心を許した友人だ。辛くないはずがない。
「ねぇ、三沢さん。何で、三沢さんは俺と一緒にいてくれるの。俺には分からない。三沢さんがなんで俺にそこまで執着するのかわからない」
「何でそんな事、聞くの?」
「だって、あんなに、羨ましいくらいに強い絆で結ばれていた甲野君と小湊先輩でも、あんなにあっけなく壊れちゃうんだ。何の魅力も無い、何も持ってない俺なら、もっと簡単に壊れるのかな」
「あおちゃんは、本当に馬鹿だ」
三沢は綿貫から少し体を離すと、綿貫の両手を自分の両手で包み込み、ちゅっとキスをした。
「言う必要はないって思ってたけど、でも、あおちゃん不安なんだよね。こんな事があったら仕方ない。だったら教えて上げる。俺はずっと昔から、あおちゃんだけなんだよ。出会った時からずっとそうだ。ふわふわで甘い甘い、俺の綿菓子だ」
「どういうこと?」
「俺がね、しゅうちゃんなんだよ。あおちゃんの、しゅうちゃんだ」
綿貫は三沢の顔をじっと見る。三沢は何を言っているのか。三沢がしゅうちゃんだったらいいと思っていた。そうだと思った事もあったが、そんな都合のいい話などあるのか。
しかし、三沢は嘘など言っていない事がわかる。そして、三沢はこんな嘘をつく男でもない。
「あぁ、そうだよね。そっか。そうなんだ」
綿貫は笑う。全てに合点がいった。
そっか。そうなんだ。この人が、しゅうちゃんなんだ。
「何で教えてくれなかったんですか。それ、教えてくれれば、あんなに遠回りしなかったのに。こんなに、不安にならなかったのに」
三沢は綿貫の唇にキスをしてくると、ゆっくりと、長い間貪ってくる。温かく柔らかい感触に、冷え切っている体の芯が温かくなった気がした。
「言ったらどうなってた? 言ったら、あおちゃんは間違い探しをしたよね。しゅうちゃんはあぁだった、こうだったって、俺と違うところを見つけて、比べようとする」
「そんなこと……」
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