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第8話

「せんせっ!!」 「満留くん?どうしたの?そんな…血相変えて」 「颯っ…とっ…はぁ…はぁ…別れたって…はぁ…聞い…ってっ…はぁはぁ…」 「うん…別れたよ」 「なっ…で…」 思った以上にあいつは冷静で微笑していて…颯はあんなに泣いているのに…どうしてこんなに幸せそうにしてるのか…あの日の言葉は嘘だった?そんなこと…あるはずない…信じたくない… 「颯から…聞いたんでしょ?転勤が決まったし…結婚するんだ…」 「う…そだ…はぁ…そんなの…」 「…本当だよ?…」 「だって…あんた…あの日…」 「あははっ!!信じてたの?まだまだ子供だね!いくら大人びていてもやっぱり中学生…ガキだ…颯は綺麗だったし体も相性いいし…さいっこうのオモチャだったよ!!」 その時のあいつの顔を俺はしっかり見ていなかった。見ていたとて何か変わったか? きっと変わらなかっただろう… 颯と別れるという事実は覆らないのだから… 「っ!!てめー!!」 気づけば俺はあいつの綺麗な顔を殴ろうと拳を握っていた…しかし…颯の顔が浮かんでこの拳をふるえなかった… 「…やっぱり颯のこと好きなんだ?特別な意味で」 「っさい!!俺はあいつのその対象になることなんてねぇ!!だからっ!お前を!!なのに!!颯泣いてた!!お前を思って泣いてた!!」 「へぇ。そう。」 その時だ。いきなり玄関が開いて鈴のなるような声が響いた 「あれ?洸哉?どうしたの?その子何?生徒さん?」 とても綺麗な人だった。目の前のこいつに似合いの人だと思った その人は本当に不思議そうに首を傾げた 「うん。」 「初めまして!えみりよ。あなたも綺麗な子ね!」 生徒だとわかると眩しいくらいの笑顔を俺に向けて手を差し出してきたがそれを取ることはできなかった。 「っ!この人が」 「うん!婚約者。綺麗でしょ?」 「ちょっと…洸哉…」 目の前で女を抱きしめて笑ったこいつの表情はなんだか不思議な表情だった。 どこか苦しそうに無理矢理に笑っているように見えたのだ。 それが気になって口を開こうとした瞬間こいつは女の腕を引き部屋の中へ入れた 「ほら。えみり入って。もうすぐ荷造り終わるから手伝って。じゃあね。満留くん」 「ちょ!待てよ!」 無情にもドアは閉まり鍵がかけられた…何度もドアを叩くけれど開くことはなく隣人に訝しげに見られてしまい渋々その場を去った。 悔しい…あんなにも…颯は想っているのに…何で…あんな女と…あの言葉は全部嘘だったの? 泣きたいのは颯の筈なのに…涙が止まらなかった… 「…洸哉…あんた…どういうつもり?…」 「これでっ…いいんだよ…いいんだ…ごめんね…ごめん…あぁぁぁぁ…何で…何で…俺が…颯…っ…颯…っ…」 あいつがそんなに泣いていたことは俺は知らない…あの女が本当に婚約者なのかどうかも…でも俺にはそれが真実なんだと…そう認めるしかなかった

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