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第65話

颯の気持ちの変化なんて気がつかないまま服を着てリビングに降りた。 いつものように既に食事の準備はほとんど終わってて忙しなく動く後ろ姿は…新妻のようだ…そんな邪な思いを持っていたからか自分でも 無意識に颯の真後ろに立って後ろから抱き締めて颯の髪に顔を埋めていた 「おかえりなさい。焔。どうしたのです?お腹がすきましたか?もうすぐ出来ますから少し待ってて」 「ん…」 「焔?どうしました?」 何だかとても離れ難い…やっぱり颯のことが好きだ…離れなきゃ…わかってるのに… 颯は離れない俺の髪を撫でるが俺を剥がそうとはしなかった 「…あ…ごめん。颯」 「いいんですよ。焔にそうされるの好きだから」 「もう少しだけ…」 「ふふ…焔が失恋したみたいですね」 良かった…颯が笑ってる。先生の時よりは傷は浅そうだ。おそらく心構えが出来ていたからだろう 「焔…」 「ん…」 「あの…さっきの…触ったのと…き…キス…気持ち悪かったですよね。突然そんなことしてしまって…すいません」 「…気持ち悪くなんてねぇよ。驚いただけ。」 少しだけ勇気を出してみようか? 「お前にされて…嬉しかったよ。なんなら…もう一度キスしてみる?」 そういうと颯は体の向きを変えた。きっとバカなのかと罵倒されるのだろう。さっきのは颯の気の迷いだから… なのに…颯はまさかの行動に出た…。 もう一度俺にキスをしてくれたのだ。今度は啄むようなキスだった 「気持ち悪くない?」 「…俺幸せ者?こんな美人にしてもらえるなんてな。ははっ」 俺の本当の気持ち…誤魔化せた?誤魔化せてない?俺…今どんな顔してる? 「焔…っ…何て顔してるの?…」 「あ…え?わかんない」 「焔…」 切なそうに眉を潜めて颯は潤む瞳で見上げる 「焔…ねぇ…」 「…」 「もしかして…俺のこと…」 「…っ…」 「…そんなわけ…ないですね…慰めてくれてありがとう。大丈夫ですよ。雪割のことちゃんとわかっていたから。待っていてくれてありがとう」 「颯は俺にとって大切な親友だからね。当たり前だろ?」 気付いた?気付かなかった?…気付いたけどないことにされたのか…。これが現実…やはり颯にとって俺はそれ以上の関係の相手になることはないんだ…

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