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第66話
颯side
焔が上から降りてくる足音が聞こえる。扉が開かれていつもの席に座るのだと思ってたのに…
俺の後ろに立って俺を抱きすくめた…焔が失恋してしまったみたいにスリスリと俺の髪に顔を埋めた
「おかえりなさい。焔。どうしたのです?お腹がすきましたか?もうすぐ出来ますから少し待ってて」
「ん…」
「焔?どうしました?」
ドキドキと規則正しい焔の心音。とても心地いい。
焔…あぁ…本当に…優しいですね。俺を慰めてくれるのですね…焔の腕の中はとても安心します…まるで俺たちは二人で一つみたいです
「…あ…ごめん。颯」
「いいんですよ。焔にそうされるの好きだから」
もう少しだけ…抱き締めていてくれないかな?本当に焔の腕の中は安心するんですよ。この温もりに…何度も何度も助けられましたね。その一つ一つを俺は覚えています
「もう少しだけ…」
俺と同じ気持ちでいてくれたのですね。なんだか擽ったいです
「ふふ…焔が失恋したみたいですね」
そういうときゅっと抱き締める力が少しだけ強くなる
「焔…」
「ん…」
この関係を崩さないためにもさっきのことは謝らないとならない…
「あの…さっきの…触ったのと…き…キス…気持ち悪かったですよね。突然そんなことしてしまって…すいません」
本当にごめんなさい。どうかしてました…
「…気持ち悪くなんてねぇよ。驚いただけ。お前にされて…嬉しかったよ。なんなら…もう一度キスしてみる?」
え?嫌じゃない?驚いただけ?…嬉しかった?もう一度?…何だろう…この胸のざわめきは…俺…嬉しいの?それとも嫌悪してるの?わからない…だから…体の向きを変えた。
いつもみたいに焔に暴言を浴びせて…そして…それから…えっと…えっと…そう思う心とは裏腹に俺は焔に触れるだけのキスをしてて…自分が一番驚いてる
「気持ち悪くない?」
心と体が一緒にならない…勝手に言葉が溢れだす
「…俺幸せ者?こんな美人にしてもらえるなんてな。ははっ」
焔?いつもの余裕のある表情と違う…ほんのり頬を染めてる…声まで少し震えてる…まさか…まさか…
「焔…っ…何て顔してるの?…」
「あ…え?わかんない」
「焔…」
焔…貴方…まさか…俺のこと?
「焔…ねぇ…」
「…」
「もしかして…俺のこと…」
「…っ…」
嘘だよね?そんなことある?ないよね?あってはならないんだ…だめだよ?そんなの…焔は…焔は幸せにならないと…可愛らしくて焔を支えてくれる可愛い女の子と幸せになって…そして…そして…
…だめです…そんなのだめです…
「…そんなわけ…ないですね…慰めてくれてありがとう。大丈夫ですよ。雪割のことちゃんとわかっていたから。待っていてくれてありがとう」
そう…きっと俺を慰めてくれてだけだ。焔が俺のことをそういう意味で好きになってはならないんだ…だって…ずっと隣にいたいんだから…好きなわけない…
「颯は俺にとって大切な親友だからね。当たり前だろ?」
そうでしょ?そうだよね?それなのに…何て顔してるの…焔…ほら…冗談だと…そう思わせる顔をして…
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