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第75話

翌日から光藤と颯が共に過ごすことが増えた あの日からもうすぐ1ヶ月がたとうとしていた あからさまに見せつけてくる2人。 こんな日が来るのはわかっていたはずなのに…もう何度目かもわからない胸の痛みに気付かないふりをして俺は仮初の恋人に笑顔を向ける 「焔くん。帰ろ」 「少し待ってろ。八重」 「うん」 「なぁ。焔」 「滋野。どうかしたか?」 「お前らどうなってんの?」 「見ての通りだよ。颯は光藤と付き合いはじめて俺は吉仲…八重と付き合っているってこと」 吉仲 八重(よしなか やえ) 小柄で可愛らしい顔立ちをしている。常に笑顔を絶やさない優しい奴。俺は知らなかったが吉仲はかなり人気があったそうだ。 「でもお前…」 「じゃあな。また明日」 八重のところへ行くと本当に嬉しそうに笑う。 そんなところを可愛いなと思い始めているのも事実だが未だにわからないことは、こいつがいつどういう経緯で俺に好意を持ったのかと言うこと。 本当に何の接点もないのだ。すれ違ったことくらいはあるかもしれないが俺は顔すら知らなかった。もちろん話したことだってなかったんだ… 「なぁ。八重」 「何?」 「…いや。何でもない」 「…変なの。ねぇ。焔くん」 「ん?」 「手…繋いでもいい?」 「いいよ」 「ありがと」 照れたように俯くのはやっぱり可愛い。でもやっぱり俺は… 「焔くん…」 「何だ」 「あの…今日泊まりに来ない?明日お休みだし…」 「…わかった…」 帰宅して外泊のことを伝えると相手が颯じゃないことに俺の両親は驚き何か言いたそうにしていたが気付かないふりをして家を出た。 家を出たときだった 「満留。出掛けんの?」 「あぁ。八重のところに泊まりにいってくる」 「そうか。仲良くやってんだな」 「…」 「颯に言われてるから?」 「さぁな。お前は颯のとこに泊まり?」 「いや。まだ泊めてはくれたことないよ。一度もな」 「ふーん。そっか」 「…あのさ。」 「わりぃ。約束の時間だからまたな。仲良くな」 颯と家で寄り添う姿が安易に想像できてその映像を打ち消したくて足早にその場を立ち去った ……… 「いらっしゃい。焔くん」 「うん。お邪魔します」 「ふふ…嬉しいなぁ…来てくれるなんて」 「あぁ。だが…俺は…」 「わかってるよ…大丈夫」 「ごめんな」 「ううん。こうして隣にいてくれることが嬉しいから…」

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