80 / 124

第80話

近くの喫茶店に入り窓際の席に座る。 品のいいマスターが香り高いコーヒーを淹れてくれた 「それでね颯のことなんだけど」 「うん」 「俺颯のことずっと好きだったんだよね。だからあの日OK貰えて凄く嬉しかったんだ…颯は見た目と違って本当は優しくて…努力家で…睦月に恋してるのも可愛くて仕方なかった。 睦月がさ、あたるんと付き合いだして今がチャンスだって思って伝えたらすんなりだったからそのときは嬉しい!って思いが先だったんだけど…なんか付き合いが始まって冷静になったらさ…何か…違うなって…俺を好きな訳じゃないけど恋人を作らないとならない何かがあったのかなって…付き合っていままで指一本触れさせてもらえなかったんだ…」 「え?」 「あの日だけだったよ。颯が俺と腕組んでくれたのも…頬にキスさせてくれたのも」 「でも仲良さそうだった」 「うん。でもさ。それって付き合う前と何が違う?少しだけ距離がつまっただけで実際は何も変わらなかった…」 「…」 「俺だって…好きになってもらえるように努力はした…でもさ…うまくいかなくて… 何かさ…好きなのに凄く苦しくて…だから昨日別れを告げてきた。勿論引き留められるわけもなくて…すんなり受け入れられたからそのまま帰ってきた… 今日八重のとこに来たのは颯と別れて帰宅して色々考えて…きっとお前のことだからお前から八重に手を出すことはないって思っていたんだけど…八重の異常なまでのお前に向ける感情を思ったらなんか嫌な予感してあいつの母親から預かってる合鍵で勝手に入ってきた。そしたら案の定で…」 颯が今光藤と別れて何を思っているのかはわからない。でも… 「ありがとう。助かった…八重をあんな風にしてしまったのは俺…本当に…申し訳ないことをした…」 「…いいんだよ。八重のためにきっとなったはずだから」 「…」 「なぁ。満留」 「なんだ」 「お前このままでいい?俺さ思ったんだ。颯がおかしな行動になってしまった原因ってお前なんじゃないかって…」 「…そうだよ。俺のせい…俺があいつに俺の想いを知られてしまったから…俺が隠していれば良かったのに…俺は…」 そう。その理由はきっとそのことだ。颯は俺を自分から引き離したかったんだ…それはきっと紛うことなき事実だと思う。 「颯にも言ったんだけど…お前たちさ付き合ってみればいいじゃん。もしうまくいかなかったとしてお前たちが離れてしまうことはないと思うから」 「そんなに簡単なことじゃねぇよ」 「案外簡単なことなのかもしれないよ。お前気付いてないでしょ?八重と一緒にいる姿を颯が苦しそうに見つめてたの」 「それはあるはずない。それなら目くらいあってるはずだ。俺も…ずっと颯を見ていたから」 「本当に…お前らはこういうことは不器用なのな。颯は自分の気持ちに気付いてねぇし。まっ。今日颯のとこ行ってみてよ」 「…わかった…」 「じゃあ…八重がそろそろ限界だと思うから俺は帰るわ。八重のことは俺がどうにかするから心配すんな。自分を責めるな。お前は悪くねえ」 伝票をもって颯爽と立ち去る後ろ姿はどこかスッキリしたように見えた

ともだちにシェアしよう!