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第88話

颯side 「颯くん。毎日ありがとう…」 「いえ…まだ眠っているんですね」 「えぇ…」 焔が眠り続けて五日ほどたっていた。医者に見せたけど原因はわからない。精神的なものから来ているかもしれないということしか。だけど生死に関わることではないということを聞いた。自然に目覚めるのを待つしかないのだ。 長く眠り続けていることでもしかするとどこかに異常が見られるかもしれないと言うことは聞いたけど…それがどんなものでどの程度のことなのかもわからない… 「昌子さん休んでますか?顔色優れないようですけど」 「大丈夫よ。ありがとう。大二郎さんと交代で見ているから」 「あの。俺もそこに加わってもいいですか?」 「颯くんは学校があるじゃない。私たちはお休み貰ってるからいいけど」 「たった数時間でもいい…俺も焔の側にいたいんです…俺…焔のことが好きだって…気付いたから…」 「颯くん…」 「ごめんなさい。俺は焔と一緒にいたい…孫の顔とかは見せられないかもしれない…でも…好きなんです…」 「ありがとう…焔を好きになってくれて…」 「焔には随分と苦しい思いをさせてしまったでしょうね…だから…今度は俺が一生懸命支えていきたい…俺にしてくれたみたいに…だから…側にいさせてください…」 「…わかった…無理しないで。それは約束してくれる?」 「はい」 毎日数時間でも…数分でもいい…側にいさせて…好きだから…早く…目を覚まして…抱き締めて…キスをして…ねぇ…焔… そして十日たち側についていたのだけれど眠ってしまったようだ…情けない… さらさらと髪を撫でるゆったりとした手付き…気持ちいい…焔…焔… 「焔…」 ゆっくり目を開けると優しい眼差しで俺を見つめる焔と目があった 「おはよ。どうしたの?こんなところで寝て」 「焔が目覚めないから…」 よかった…やっと目を覚ましてくれた…直ぐに伝えようと思ってたのに胸が一杯で何も言えなかった 「え?」 「十日です…十日ですよ…?眠りすぎです」 「十日?そうなの?なんでそんなに?」 何だか様子がおかしい。寝起きだから? 「お医者様が来てくださって…精神的なものだと…」 ごめんなさい。きっと俺のせいですね。 「そうなんだ…そっか。ごめんね。心配させて…もう大丈夫だから。母さんたちは?」 「今呼んできますね」 急いで昌子さんを呼びに行く 「昌子さん。焔が目を覚ましました」 「よかった…よかった…颯くんのお陰かもね…」 「部屋に先にいっててください。俺は飲み物用意してきますから」 「ありがとう」 昌子さんを見送ってお茶をいれる。ずっと眠っていたから喉が乾いているはずだから… 用意して部屋に戻ると思っても見なかった言葉が聞こえて危うくトレイを落としそうになる 「颯て…さっきの綺麗な子?」 あまりのことにドアの影に隠れて言葉を聞いていた 「あんた…何いってんの?」 「え?」 「眠る前も会ってたじゃない」 「え?…わかんない」 わからない?俺のことが?どうして? 「そんなこと…」 嫌だ…そんなの…嘘だと言って…そう思い声をかけた 「…焔…」 「颯。ありがとう。心配させてごめんね。同じ制服だから学校の…ごめんね。俺あんまり人のこと覚えるの得意じゃなくて」 あぁ…これは現実だ…これまで焔の気持ちを弄んできた罰なんだ…だったら…受け入れるしかない… 「…そっか…。クラスメイトですよ。三葉 颯です。こう見えても男です」 「母さんがくんって言ってるから変だと思った。男なんだね。すごく綺麗だね。女の子だと思った」 出会った頃と似たようなことを言って微笑みかける焔…こんな穏やかに笑う焔を最後に見たのはいつだったか… 「この年になっても言われるとは思わなかったです。体調良くなったら学校来てくださいね。皆心配してますので」 「ありがとう」 これ以上ここにいたら泣いてしまう… 「じゃあ。俺はこれで。失礼します」 「颯くん!」 追ってきてくれた昌子さんに呼ばれて足を止めたけど振り返れない。もう涙が溢れてたから 「颯くん…」 「すいません…俺…」 「どうして颯くんのこと…」 「それだけ俺が精神的に追い詰めてしまったのでしょうね…大丈夫です…いつか…また…ううん…戻らなくても友人になれるよう今度は俺が努力する番です。焔の我慢に比べたら…だから…」 そっと昌子さんが俺を後ろから抱き締めてくれた 「焔は貴方のことが大好きだから…きっとまた直ぐに思い出してくれるはず…そう信じるわ」 「…っ…ありがとう…ございます…じゃあ…」 でも…そう簡単にいかないことを思い知らされることが直ぐに待っていた

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