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第89話
颯side
翌日病院に行ってから登校してきた焔。十日も休んでいたからみんな心配してた。
滋野が話しかけてそれを皮切りにたくさんの人が焔に駆け寄った。
その様子を見ていたらなんだか虚しくなってくる。俺には焔だけだったけど焔にはこんなにも思ってくれる人がいた…
嬉しい気持ちも全くないわけじゃない。でも…やっぱり寂しい。俺だけ忘れられているのがわかったから。
どれだけ苦しめたのだろう…あんな言葉を言わせてしまって…何で俺は直ぐに違うよって言って追いかけなかったんだろう。好きだって気付いていなかったんだろう…
苦しくて唇を噛む。誰も気付かない俺の苦しみ…それはそうだろう。誰が気付かなくても焔は気づいてくれてたのだからみんなが俺を気にする必要はなかったのだから…
「焔…」
とても遠い人に見えた…
その時とても可愛い子供みたいな無邪気な笑顔を滋野に向けた…そんな顔これまで誰にも見せたことがないのに…そんな顔したらみんな焔の綺麗さに…気づいてしまう…可愛さに気付いてしまう…やだ…そう思うと声をかけていた
「おはようございます。…満留くん」
「あ!颯!はよぉ。」
可愛らしい笑顔のままでこちらをみた焔に胸が高鳴る。
「え?」
滋野が怪訝な顔をした。俺が名前で呼ばなかったからだろう。でもそうしないとどうにかなってしまいそうなんだ…
「何?滋野」
そんな表情に焔が不思議そうに首をかしげて問うた。
「どういうこと?」
俺は滋野の戸惑いに気付かない振りしながら焔の言葉を聞く
「何が?」
尚も不思議そうに問う焔はどこか頼りなく幼子のようだった
「滋野。少しいいですか?」
「いいけど…」
「いってらっしゃい」
ひらひらと手を降りながら見送る焔に背を向けて空き教室へ滋野を連れてきた
「どうなってんの?」
「…俺のことだけ…記憶がないんです。精神的なもので10日間眠り続けた結果こうなりました」
「何で…」
「その直前最後にあったのは俺です。その時焔に…『最後にする…お前の側にいること…だから安心して笑っていて』そう言われて…俺は追いかけなかった…追い詰めてしまったのに何もしなかった。その…結果です。きっと俺を好きな感情が焔を押し潰していて…一番忘れたい感情だったのでしょう。だから…俺のことだけを忘れた…」
「…お前」
「気付くのが少し遅かったようです…俺は…焔が好きなのに…だから…これから頑張ります。見守っていてくれませんか?話し聞いてくれませんか?」
「…わかった」
「ありがとう…」
教室に戻るとショッキングな光景が飛び込んできた。焔が凪くんに優しく笑いかけて…そして…抱き締めていた。とても幸せそうに…愛おしそうに…
あぁ…そうか…俺への思いは彼への思いへと記憶が刷り変わってしまったのだ…
…ということは…そう…彼らが別れたことは無かったことになる…そして前とは違い俺への感情は0で凪くんへの感情が100になる…もう…遅いのだ
「三葉…」
「大丈夫…大丈夫です…彼と付き合うように言ったのは…俺だから…でも…本当は…泣いてしまいそうです…そんなこと言う資格なんて俺にはないけれど…」
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