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第98話

暫くそこに立ち尽くす。 八重を深く傷つけた…八重の無理した笑顔は見ていて苦しかった…だけど…今俺が会いたいのは… 「焔」 強い風と共に現れたこの人だ。 「颯?どうしてここに?」 「凪くんに言われて…酷い顔ですね。いい顔が台無しです」 「ねぇ…颯…」 「なんですか?」 「俺…やっぱり颯のこと思い出せない」 「はい」 「でも…抱き締めたいって思うし…キスしたいって思う…曖昧なままの俺だけど…ここに来てくれない?」 颯が背を向けるのなら仕方ない…逆の立場なら俺は苦しくて苦しくて逃げ出してしまうだろうから… だけど颯はゆっくりと歩み寄って来てくれて俺の胸に顔を埋めた 「お前が求めてくれるのなら…思い出せなくてもいいよ。俺とお前のこれからは作っていけるから…焔…好きです。俺と一緒にいてくれませんか?」 顔を埋めてるから表情は見えないけれど小さく震えてる…耳は真っ赤だから…クールな颯の精一杯の行動なのだろう 「颯…」 細い肩に手を置く 「顔…見せて?颯」 ゆっくりと顔をあげた颯。目を潤ませながら頬はリンゴみたいに真っ赤だ 「ふふ…昨日はもっとすごいことしたのに…可愛い…」 そっと頬に唇を寄せた 「颯…キスしていい?」 「はい…」 そっと目を閉じた颯の柔らかな唇を食む 「ん…」 「颯…とっても勝手だけど…俺の隣にいて?」 「はい…隣に…いさせてください…」 「ありがとう…」 「何で泣くんですか?」 「颯を知ってる俺に妬いてるの…思い出したいよ…ずるい…颯のこと知ってるなんてずるい」 「ふふ…もう…貴方は…ねぇ。焔。過去の貴方はこれから先を知らない。結局同じになりませんか?」 「むぅ…でも…やだ」 「可愛らしい貴方も素敵だけどクールなあなたにも会いたいのは事実ですけどね。隙が出来すぎですよ。これから貴方はきっと多くの人に想いを告げられることになるでしょう。そんな中でどなたか別の誰かと生きていきたいと思えたのなら俺のことは気にしないで貴方の幸せを掴んでくださいね。」 「…颯…さっき一緒にいるっていったのに酷い…颯だって人気あるでしょ?俺よりいい人いたらその人に行っちゃうの?そのための伏線?」 「俺はお前といることが一番の幸せですよ。俺から離れることはもうしません。でも焔を縛りたくもありません」 「…ねぇ。颯…」 「はい」 「生徒会のお仕事まだ残っているの?」 「いいえ。雪輪が代わりにやってくれたのでもうありません」 「一緒に帰ろ」 「はい」 「手を繋いでもいいかな?」 「恥ずかしいので嫌です」 「えぇ…」 「俺の家に寄っていきませんか?」 「…それ…大人のお誘いも含まれる?」 「何ですかそれ。母が心配していたので顔見せてあげてください。父も今日は家にいるので」 「ちぇっ」 「この変態。俺のことわからないくせに…」 「ごめんなさい…」 「でも…家なら手は繋いでもいいですよ?」 「…っ!うんっ!ありがと」 「苦しいです…抱き締めすぎです…」 「ごめん」 「仕方の無い人ですね。帰りましょう」 「うん」 あっさりと俺から離れ背中を向けた颯。颯爽と立ち去っていく後ろ姿をぼーっと見送った 早く…思い出したいな…ぼんやりそう思っていたら扉に手をかけた颯がくるりと振り返る。軽く結われた髪がさらりと揺れてやっぱりすごく綺麗だと思った 「焔。何をしているのです。行きますよ」 「あ。うん」 その背中を追って屋上を後にした

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