11 / 23

第11話

「……ああ、マヤ。最高だよ。もっと吸って」  じゅるっと音を立てると、小林の身体がぴくっと動く。瞼を閉じて、熱い吐息が漏れるあいつは、相当、気持ちよさそうだ。 「もっと……吸って。早く擦って……ああ、イキそうだ。……ん、くぅ……」  デスクに両手をついた小林が、白濁の液を僕の口の中に放出しながら、ビクビクと小刻みに震えた。苦い液体が喉の奥へと流れていく。喉仏を上下させて、飲み込むと気持ち悪くて咳き込んだ。 「おいしい?」 「マズイ」 「俺はマヤのが甘くておいしいけど」 「変態」 「先輩はツンデレだよね?」 「小林……顔が……態度が。プライベートモードになってる」 「先輩、今夜は早く帰ってきてね」 「……わかったから。仕事モードに戻れよ」  僕はデスクの中から出ると立ち上がった。オフィスを出ると、目の前にデスクがある美鈴さんがニヤニヤしながら僕を見ていた。 「甘いの?」 「……なわけないだろっ! 小林の味覚がおかしいんだ」 「デレッデレねえ。あいつ……麗香さんが一緒に仕事させたくないわけわかるわあ。いきなり勃起されてもねえ」 「身も蓋もない言い方やめてえ。僕の身体がもたないから」 「いっそのこと奥さんになれば? 専業主婦で、あっちだけに専念!」 「まじで……やめて」  クスクスと楽しく笑う美鈴さんの声を背中に、僕は歩き出した。口の中にはまだ、あいつの苦みが残ってる。熱いコーヒーを飲んで、口の中をさっぱりしたい。 「へえ、そういうこと」  休憩所でホットコーヒーを飲んでいると、しゃがれた低い声が右耳のすぐ後ろから聞こえてきて、心臓が跳ね上がった。吹き出しそうになって口元を抑えながら、僕はゆっくりと首を捻ると、意味ありげな表情で笑っている佐藤がいた。  ち、近いんですけど?  立ち位置がおかしい。恋人同士でもないのに、身体と身体がくっつきそうな位置にいるっておかしいだろ。 「佐藤……さん?」  会議で小林と大喧嘩したって聞いた。僕を能無しだと言い、小林がキレた、と。この笑み、嫌な予感しかしない。さっきの……見られていたのだろうか。ガラス張りのオフィスだ……可能性が高すぎて……。  僕は佐藤さんから視線を外した。これから何を言われるのか、心構えをしつつ、恐怖でコーヒーを持っている手が震えた。 「最初は美作のヒモだと思ったんだが……。それを知っている小林が、忠誠心を売るために守っているだけか、と。それにしても小林があんたを買いかぶりすぎてる。普段、誰が貶されていようとも気にとめもしないくせに……で、さっきのオフィスでのやり取りでわかった」 『いいから。早くっ、咥えて』 『ちょ……んぅ!』 『……ああ、マヤ。最高だよ。もっと吸って』  スマホから、さっきのやり取りが聞こえてきた。  え? なんで?  僕は眉間に皺を寄せて佐藤を睨み、距離をあけようとするが、手を回されて股間を掴まれた。

ともだちにシェアしよう!