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第14話

―豊side―  ……っの野郎。ぶっ殺してやる。  会議のとき、俺に言い負かされたのが気に入らねえからって、マヤに手を出す必要はねえだろうが。  あの怯えっぷり。首の脈拍も異常に早かった。乱れたワイシャツ……いくらすれ違ったくらいで匂いは沁み込まねえっての。それになあ……。 「煙草じゃねえんだよ……匂ったのは、あいつのむかつく香水だ」  佐藤は煙草、吸わねえし。  秘書のデスクの前で足を止めると、美鈴の顔を見た。 「すぐに佐藤のパソコンをハッキングしろ」 「えっ? なんで知って……」 「は?」  しまったと美鈴が口を閉じて、首をふるふると横に振った。ちがいます、何も知りませんと態度で示しているが、明らかに知っている顔だ。 「ほう? お前もグルか?」 「ちがっ。私はただ麗香さんに……」 「へえ、麗香さんにねえ」と俺は呟いて、にやっと笑ってから、オフィスに戻った。  ソファでクライアントであり、幼い頃からの知り合いである道元坂が「遅くなる」と誰かに伝えて電話を切っているところだった。  俺は席を外した無礼を詫びてからソファに座りなおす。道元坂はクスっと笑って嬉しそうな顔をしていた。 「お前にも大事な人がいるってわかって嬉しいよ」 「兄貴面しやがって」 「兄貴みたいなもんだろ?」 「まあ……な。でさ……仕事の話は別の日にしてもらってもいいか? 一件、頼みたいことができて」 「場所変える?」 「ああ。飲みながら話そう」  ちょっと麗香さんに報告してくる……と俺は一度オフィスを出た。俺が麗香さんの部屋に行けば、美鈴と話し込んでいるのが見えた。  ノックしてからドアを開けると、「全て聞かせろ」と二人を睨みつけた。 「なんでわかったの? あの子が話すとは思えない。酷く動揺してたもの」 「匂いで」 「……いぬ?」 「人間だ」  ムッとする。余計な冗談は今はいらない。さっさと詳細が聞きたいのに。 「誰かさんがオフィスで盛るから……佐藤が盗聴の盗聴をして貴方の弱みを入手したのよ。それをあの子に突きつけて、私と小野寺議員にデータを送るって脅したのよ。まあ、最初はあの子からあんたの弱みを握ろうとしたんだろうけど、ムラっとしたんじゃない? 無理やり突っ込んで、これからも関係を続けろって言ったらしいわよ」 「……でその証拠のデータを入手! スマホごと貰ってきた。あと、パソコンのデータも消去。クラウド上に残してあったからそれも、ね。ついでにまだ気づいてない。今頃、女子のいる店に向かってるんじゃない? このお店を誘っておいたから」  美鈴がニヤッと笑って名刺を差し出した。必要以上に大きくあいた胸元からは黒いブラジャーがちらっと見えている。ワイシャツのボタンを閉めると、通常通りの首元しか見えない状態に戻った。 美鈴がよく使う手だ。情報を引き出すだけだして、続きをしたいならここにって、名刺を出す。だが、そこには美鈴は働いてない……ていう落ちだ。  ったく。美人だからできる手口だよな。しかも弁護士の秘書とは名乗らないで、キャバ嬢のフリをして。  今回の相手は……佐藤だ。色仕掛けで誘い、ここで落ち合いましょ……的なアプローチをしたんだろ。 「女は怖い。恋人が先輩で良かった」 「で? 豊はどうするの?」 「美鈴がいいトスをくれたから、これを利用する。ちょうど道元坂もいるしな」 「貴方も相当怖いわよ」 「当たり前だ。先輩を怪我しておいて、ここで仕事ができると思うほうが間違ってる」 「まあ、結果的に私の手を汚さずに、小野寺君をパートナーにできるから……いいけど」 「俺に感謝しろよ? あと、先輩には俺は知らないことにしておく。知られたくないから、麗香さんに頼んだろうし」 「まあ、意外。問い詰めて、正座でもさせるかと思ったのに」 「原因は俺だし。先輩のせいじゃない。先輩の溢れ出る色気は、他の男にも効くってのがわかったから対策をとらないとな」  道元坂と飲んで帰ると、麗香さんに告げて、オフィスを後にした。

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