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「お、おいしく……」
息が途切れて上手く発声ができない大翔。そんな彼に追い打ちをかけるように、皇我は時折リップ音を立てながら首筋ばかりを舐めた。
「ここ弱いのか」
「う、うるせっ……やめろその、顔……」
皇我のうっとりした表情が視界いっぱいになると、大翔はどうしたらいいかわからなくなってしまうのだった。
「顔? 舌と手はそのままでいいんだな?」
「そういうことじゃねーよ! ただお前のその表情のほうが……なんか……」
「飲まれそう、ってか? 飲まれりゃいいじゃねーか」
皇我は勘が鋭い。大翔は舌打ちを返してなんとかこう続けた。
「嫌に決まってるだろ……早くやめろ」
「やめて欲しけりゃ『おいしくなーれ』だろ」
大翔は目をぎゅっとつぶった。そうして皇我に愛撫されている現実から目をそむけようと思ったのだ。ああ、この間眼鏡の度を直さなければよかった。そうすればコイツの顔がはっきり見えずに済んだのに。
「おいしくなあれ、おいしくなあれ……」
大翔は息も絶え絶えに声を発した。
「へとへとじゃねーかよ」
「お前のせいだろうが……ひっ」
大翔が反論すると、皇我はまた大翔の首筋から胸にかけて顔をうずめ、強く吸ってキスマークをつけた。
「おいふざけんなよ、なんで痕つけてんの」
「てめーが駄目メイドだって証拠だ」
「駄目メイドじゃねーし」
「なら完璧にやれよ。次はチェキだな」
「まだあんのかよ」
「客の帰り際に追加料金で写真撮るサービス。執事役でもやれって言われたろ」
「まあな。でも写真撮ってちょっとラクガキするだけだろ。教わらなくてもわかるわ」
「フツメガネは自分が写真映えするとでも思ってんのか? 練習しねーと無理だろ」
「人が気にしてることをずけずけと抜かしやがって」
「おら、撮るぞ」
皇我に促され、大翔は乱れたブラウスのボタンを直し、リボンを結び直した。まったくなんでコイツの言いなりにならなきゃいけないんだよ、この七光りが馬鹿力でさえなければ……。不満たらたらに皇我を見やると、端整な顔が真横にあってぎょっとしてしまった。
「さっきから顔近ぇんだよ七光り」
「ここ狭いんだから仕方ねーだろ。それよりちゃんとサービスしろよ、俺の腕に巻きつくようにしがみつけ」
「ハァ? やるわけないだろ」
「やんねーと犯すぞ」
「はは、物騒なこと言うんじゃないよ七光りくん……冗談だよな?」
大翔は乾いた笑みを浮かべてみせたが、皇我はむすっとしたまま何の反応も示さなかった。普段の皇我ならいざ知れず、今この異常とも言える状況下では何をするかわからない。
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