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大翔は仕方なしに大翔の腕に巻き付いた。皇我の控えめな香水がふわりと香ってきた。コイツは嫌いだけどこの香りは悪くないな、と大翔は思った。
「おい、笑えよ」
スマートフォンを構えた皇我は、眉間に皺を寄せた大翔にそう促した。
「笑えるわけ……ぎゃはは! くすぐんな!」
また反抗しようとした大翔の脇を皇我は左手で器用にくすぐった。おかげで皇我にしがみついたまま大層楽しそうにしている大翔の貴重な写真が撮れたのだった。
「お前こんな顔すんの」
笑顔になったのは大翔だけではなかったようだ。皇我も珍しくやわらかな微笑みを浮かべていた。皇我のことを慕っている者が見たら卒倒してしまうかもしれないし、彼のことを知らない者でさえきっと虜になってしまうだろう、優しい顔をしていた。
「お前こそ」
皇我は大翔へぶっきらぼうに返した。照れているのかもしれなかった。
「それ生徒会と風紀委員会のグループトークに送っておいて」
トークアプリの中に生徒会役員と風紀委員で連絡用のグループを作っているので、大翔は手っ取り早くそこで写真を共有しようと思って言った。
「断る」
「なんでだよ。生徒会の奴らが見たらきっとウケるぞ」
「あいつらには見せたくない」
「別にお前の笑顔くらい見せたって良いだろうが」
「そっちじゃねーっつうんだよ、アホメガネ」
聞こえるか聞こえないかの声量で皇我が言った。大翔にはアホメガネの部分だけ耳に入ったようだ。
「は? お前いま俺の悪口言ったよな」
「だからなんだって言うんだよアホメガネ」
「取り消せアホンダラ七光り」
「嫌だ」
「ちょっ、また変なとこ触んのやめろっ」
皇我は誤魔化すためかそれとも単に大翔に触れてからかうのが楽しいからか、それともその両方か──大翔のパニエの中に手を突っ込み、際どいところを責めた。
「……っ、おい、七光り」
「皇我だ」
「じゃあ七光りの瀬崎皇我くん。トイレ行きたいからマジで解放して」
皇我にさんざんもてあそばれ、大翔の下半身は正直なところ限界を迎えそうだった。懇願などしたくはなかったが、背に腹はかえられない。
「頑なに七光りって呼ぼうとすんのな……。いいぜ、早くいかせてやる」
皇我は不敵に微笑んで大翔の下着に指をひっかけた。
「な、ななななな、なっ」
「動揺しすぎ。早くいかせろって言ったのはお前だろ」
「……っ! そういう意味じゃねー!」
大翔は皇我の言葉の意味を理解し、大声で叫んだ。そうすると少し気が紛れて、皇我にペースを持っていかれないで済みそうな気もした。実際皇我はかすかに怯んだので、その隙をついて大翔は皇我の足を踏みつけた。
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