7 / 9

7

「いでっ」 皇我が痛みに半歩下がったのを見て、大翔は自身の下着に触れたままだった彼の手を払い落とした。 「調子に乗んな!」 「つーか俺も結構キツくなってきたな。メイドならご奉仕しろよ」  皇我は自身の下半身を今度は大翔の太股に押しつけ、熱い息を彼の肩口にふうと吐いた。気を抜いたら冗談じゃなく喰われるかもしれない。さながら獣の鋭い爪と大きな牙にとらわれる草食動物と言ったところか。  悪あがきに過ぎないかもしれないが、大翔は皇我の両肩を掴んで眼鏡越しにきつく睨みつけた。皇我はびくとも動かなかった。 「七光りのシモの世話までしろってか? パワハラが過ぎるだろうがこの犯罪し……っ」 犯罪者、と言いかけた大翔だったが、言い切る前に言葉を飲み込む羽目になった。皇我の形のいい唇が大翔のがさがさの唇を塞いだからだ。 「うるせえ口、しかもカッサカサ。唇のケアも教えてやらなきゃいけねーとは骨が折れるぜ」 「おっお前自分が何したのかわかって……」 「キス」  皇我がきっぱり告げると、大翔は耳までみるみる赤面した。皇我は片方だけ眉をつり上げてさぞ愉快といわんばかりに大翔にこう指摘した。 「顔じゅう真っ赤だぞ」 「しね! 豆腐の角に頭ぶつけまくってしね!」 「小学生か」 大翔は顔に紅葉を散らしたまま怒鳴ったが、皇我はけらけら笑うばかりだった。  そんなやり取りの後、二人のいるバックヤードにタイミングよくノックの音が響いた。いや、もしかしたら皇我も大翔も気がついていなかっただけで、先ほどから何度かノックされていたのかもしれない。 「はい」 大翔は服装とずれた眼鏡を直してから返事をした。するとクラスメートが申し訳なさそうに顔を出した。 「あ、あのー、食品の在庫取りたいんですけど……」 「ごめんごめん! おら大人しく席に座ってろよ七光り」 大翔は隙だらけの皇我の襟ぐりをここぞとばかりに引っつかみ、クラスメートに下がるよう合図してから扉の外へと蹴飛ばした。 「おい何しやがんだ暴力メガネ」 怒りをあらわに振り向く皇我。そんな彼を、大翔のクラスメートが必死の形相でなだめた。 「あの、委員長には僕らからも言っておきますんでケンカはその。一般のお客さんもいるんで」  それを聞いて皇我は大きく舌打ちした。奥から顔を出した大翔は、クラスメートにチクチク文句を言われた。このやり取りで皇我と大翔の下着の中の膨らみはすっかり萎えてしまったのだった。

ともだちにシェアしよう!