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 その後皇我は足を組んでつま先を上下に動かし、あからさまに苛立ちを示しながらも席に座っていた。奥から出てきたのは皇我ご指名の大翔だ。また突っかかれると面倒なので、大翔は皇我に教えられた通りぶりっこすることにした。 「お帰りなさいませご主人様っ」 大翔が高い声を作って笑顔を向けると、皇我はぶっと吹き出した。 「笑うな!」 「いや、だってマジでウケる」 「おらさっさと注文しろよ」 「恐喝か? しょうがねーな、じゃあこのオムライスで」 「かしこまりました」 がばっと大げさにお辞儀をした大翔。根は真面目なのだ。  数分後、大翔はオムライスを片手にやって来た。業者に発注した冷凍食品をチンしただけなのですぐ配膳ができる。大翔はケチャップ片手に器用にハートを描きながら、唇を尖らせてこう言った。 「おいしくなる魔法かけちゃいますね! そーれ、おいしくなあれ、おいしくなあれ」 「キモっ」 「てめーがやれって言ったんだろうが」 「フツメン眼鏡野郎にやられてもな」 「けっ」 「つーかなに色気づいてんだよ」 皇我は大翔の唇を見て毒を吐いた。なるほど大翔の口先は教室のライトを反射してぷるぷるぴかぴか光っていた。 「あ? これはさっき鈴木に借りた色つきリップだ。もうカッサカサとは言わせねー、それに……」 鈴木はメイド役のクラスメートだ。大翔がリップクリームを塗ろうとしていたら、こちらのほうが良いだろうと気をきかせて色つきのリップバームを貸してくれたのだった。  それに、の続き、大翔が言葉を次げなかった理由は言わずもがな。皇我にキスされた時の映像が頭をよぎったからだった。皇我は尖った性格のわりに唇は柔らかくて、甘い味がして、おまけに香水だか整髪料だかの澄んだ香りがした。  相手がコイツじゃなければまたしてみたいくらいの──って俺は何を考えているんだ、正気に戻れ。大翔はぶんぶん首を振った。  皇我はというと、リップが誰のものかということよりも大翔が言い淀んだことのほうが気になったようだ。にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて大翔にこう聞いた。 「何思い出してんの? ムッツリフツメガネくん」 「ムッツリじゃない!」  大翔が大声を張ると別のテーブルの対応をしていたメイドの鈴木が、皇我と大翔の席ににじり寄ってきた。鈴木は愛らしい顔をむくれさせて言った。 「委員長ばっかりずるいよ。僕にも代わって」 「はいよろこんで」 大翔はこれ幸いと鈴木にタッチをして皇我を任せ、別のテーブルの配膳のためにカウンターへと踵を返した。

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