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第5話
ルイが馬を歩かせると、皆も歩き出す。
だが、縄の端を先ほど以上に荒々しく引っ張られて、リアムは自分の発言をほんの少しだけ後悔した。
ローレニアの一番近い町でも百キロ近くある。その間、ずっとこんな風に引っ張られたのでは身が持たない。
疲れていたこともあり、つい口が滑ってしまったが、言い方なら他にいくらでもあったはずだ。
だが、失敗した……と思っても今更どうにもならない。
「うっ……」
乱暴に引かれて爪先を岩場に引っ掛ける。転びそうになるが、胴に巻かれた縄がそれを許さず、どんどん先へと歩かされた。
『──マティス、それではリアムが辛そうだ』
『ですが、こいつは』
『優しくしてやってくれ。できないなら俺が引く』
ルイの言葉に「お気遣い結構」と言いそうになったが、くだらない所で抵抗して負担が増えても仕方がないので、その言葉はぐっと飲み込む。
『っ……申し訳ございません! 私が引きます!』
マティスと呼ばれた男は、馬から降りようとしたルイを慌てて止め、今度は縄を弛 ませたままゆっくり先を歩く。これならなんとか町まで耐えられそうだ。
もしかしたらルイは優しいのだろうか、なんて思ったが、それは思い違いだとすぐに気付かされる。
『使い物にならなくなったら困るからな』
奴隷が体を傷めて使い物にならないのでは意味がない。そりゃそうだ。少しでも期待した自分が恥ずかしい。
(……というか、こいつらは何をしにルーティアに来たんだ?)
魔法使いを捕まえ、自国に持ち帰って奴隷とする。それ自体はどこの国でもよくあることだ。戦に負ければ致し方ない。
だが、そもそもの目的はなんだったのだろうとリアムは首を傾げる。見る限りローレニア帝国軍の兵は全員撤退しているし、領土拡大というわけでもなさそうだ。
あの辺りでは魔法封じ用の鉱石などが採れるのだろうが、それを奪うとすれば早速自分たちを奴隷として使うか、もっと多くの兵で攻めて確実に手に入れるだろう。
その上、ローレニアの兵達は目的を達成したと言わんばかりの態度で自国へ歩を進める。となれば、考えつくのは一つだ。
(もともと俺たちを捕まえるのが目的だった……?)
まさか、ルーティア王国軍に裏切られたのだろうか。そう思えば自国の兵が来ないのも、こんな辺鄙 な地に行かされたのにも辻褄が合う。
養成所から近いという理由で先に魔法使いだけが向かわされ、すぐに兵も駆けつけるという風に聞いていたが……。
(いや、魔法が使えない地形に誘 き出すくらいだ。兵が来れないような罠があったんだ、きっと)
自国の裏切りの可能性は信じたくなくて、敵の策が上手だったのだと自分に言い聞かせる。大丈夫、まだ助けがくる可能性がある、と。
だが、どれだけ歩いても優秀な自国の兵が駆けつけてくることはなかった。
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