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第16話
「嫌だ。……それともまた脅すか? 俺の友人を傷つける、と」
リアムが冷ややかな声で応じれば、ルイは諦めたように小さく鼻で息を吐き出した。
「全く……かわいげのない」
「それにそっちを向けば、また手が出るぞ」
「なら、そのまま大人しくしていろ」
ルイはリアムの臀部に触れるとそっと撫で回し、あわいを親指でなぞる。
無理やり体を組み敷いた男の手とは思えないほど優しい手つきだ。その感覚に身震いしそうになったリアムは、枕を固く握り締めて耐える。
「っ……するなら、とっととしろ」
「強がるな。初めてだろう? 傷付けないようゆっくりしてやる」
「初めてじゃないから必要ない」
「……恋人がいるのか?」
ルイの鋭くなった声音に疑問を抱きつつ、リアムは眉を顰めて素っ気なく答える。
「お前に教える義理はない」
「そうか」
呟いたルイの声は冷たく、手つきも荒々しいものになった。
意に沿わない返答が気に食わなかったのだろうか────いやそうではない。リアムのルイに対する態度はずっと変わらない。
取引を持ち出されて渋々同意はしたものの、言葉や端々に顕れる仕草は一貫して彼を拒否し続けている。だから、今更そんなことを気にするとも思えなかった。
(まるで、嫉妬しているみたいだ)
そう思うのと濡れていない指を強引に捻じ込まれるのは同時だった。
「っ…、ぅ」
想定外の衝撃を食らってリアムは息を詰める。
(そのまま入れるとか馬鹿か!)
リアムは心中で毒づくが、力んだ体は呼吸することまで止めてしまって声が出ない。息を吐き出してようやく文句を言おうと口を開くが、ルイの方が僅かに早かった。
「きついな。本当に違うのか?」
フッと鼻で笑い、引っ掛けた指で拡げるように押し開かれて、下腹部に不快感が広がる。スーッと冷たい空気が胎内 を擽 って、無遠慮に拡げてくる親指が意地悪く回転した。
「ぅ、あ、やめ、ろ」
気持ち悪い。
咄嗟 に相手の指を弾き飛ばすようなイメージをして、それを指先に乗せて呪文と共に魔法を繰り出す。
だが、それは形となる前にバングルにバチンッと弾き返された。出せなかった魔力が体の中で暴れていっそう苦しくなる。
「くっ……は、ぁっ」
いつものリアムならありえない失態だ。けれど、魔法封じ の存在も忘れて、反射的に魔法を使ってしまうくらいに不快感で混乱していた。前を向いていたら前言通りルイを殴っていただろう。
性欲処理の道具にしてやる、くらいの意気でいたのに、快楽の欠片も感じられない責め苦に感情のコントロールはもはや不可能だった。
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