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第20話

「…………いない。戦いに出るのに弱みは作れない」  一瞬嘘をつこうとも考えたが、もしそれがバレれば──いやバレなくとも、望まぬ返答がくれば護身具が無理やり切断されるかもしれない。  ルイは恐らく、他で番を作られる可能性を懸念している。なので、彼が求めているであろう答えを正直に口にした。  ルイはそんなリアムの顔をじっと見つめて真偽を確かめる。 「──そうか」  しばらくして満足そうに呟くと、もう一度髪を撫でてくる。 「それなら交換はもう少し待ってやる。だが、番を作るのは許さない。もし作ったら……覚悟しておけ」 「だから、誰とも番にならないって言ってるだろ」 「そうだな」  ルイは香油を足すと指を増やして媚肉を押し開く。護身具を外されないと判って安心したせいか、強張っていた体が緩み、それをすんなり受け入れた。  けれど、経験のないリアムは僅かな苦痛に顔を歪める。好意の欠片もない奴に初めてを差し出すのは癪だから嘘をついたが、実際には一度も体を交えたことは無かった。  自分を慰めるために指を使ったことはあるが、それもせいぜい一本だ。三本、それも自分より大きい手となれば圧迫感も段違いになる。さらにその先の事も考えると気が遠くなりそうだ。 「うっ……く」  それでも快楽を与えられるよりはマシだ。痛みや苦しさであれば、辛い訓練を積んできたリアムには耐えられる。しかし。 (また、だ)  戦場で感じた時と同じ、いや、その時よりも濃くて甘ったるい香りが室内に満ちて、息が上がる。  まるで発情期の時のように性的欲求も高まって、肌も敏感になる。抗うリアムを嘲笑うかのように、一呼吸ごとにその感覚は高まっていく。 「っ……ぁ」 (なんだ、この匂い)  ルイが触れた所がじんじんと痺れて、愉悦が広がり、蕩けるようにその他の感覚が曖昧になっていく。  薬で抑えていたから久しく本格的な発情期なんてなかったが、発情期の時と同じような息苦しさと渇望だ。はあ、はあ、と胸を喘がせて敷布をぎゅうっと掴む。 「そうだ、そのまま力を抜いていろ」  ()せ返るような濃密な空気に、言いようのない感覚が全身を蕩けさせて、意識が混濁する。夢と現実の境が分からなくなって、自分の意識が遠くなる。  それでいて、体は無意識に愛撫してくるルイの手を追いかけて、強請るように押し付ける。  すでに昇り詰めてしまいそうな程、全身の感覚がどうにかなる匂いだ。 「はぁ……ぅっ」 「ふっ、かわいい顔もできるじゃないか」   今まで不快感しかなかったのに、これはおかしい。異常に気づいたリアムは消え入りそうな意識をなんとか起こして、ルイを睨み付ける。 「は、ぁ…っ、おまえ、薬は……ずるい、ぞ」 「なんのことだ? お前が感じているだけだろう」  とぼけるような仕草ではなく、本当に不思議そうに聞き返されて戸惑う。それなら、この匂いと異常な高まりよう、酒や薬のような酩酊感はなんだと言うのだろうか。  

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