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第26話

* * *  「はぁ……っ」  久しぶりの発情期。長年薬を服用し続けてきたから少しは軽くなっているかと期待もしたが、相変わらず重かった。体が火照って、震える。下腹がきゅうぅと疼いて堪らない。  魔力と発情期の重さが比例する、と言われている通り、リアムの発情期は他の人のそれと比べて重い。 (くるしい。あつい。くるしい)  獣のような唸り声を上げて、熱い吐息を零しながらやり過ごす。  誰でもいいから助けてくれ、なんて思いはなんとか理性で抑えているが、これで誘惑されたら正気を保っていられる自信はない。 「発情期か。薬を飲んでいてもやられそうだ」  涼しい顔で部屋に入ってきたルイに悪態をつく余裕もなく、縋るように彼を見る。 「は……俺にも、薬をくれ」 「楽になりたいなら、抱いてくれとお願いすればいい」 「ふざけるな……っ」 「ふざけているつもりはないんだがな。少しは甘えてみたらどうだ?」  そう言って指先で顎の下を(くすぐ)られる。思わず頬を擦り寄せそうになって口を引き結ぶ。ギリギリの所で自尊心が勝り彼の手を打ち払った。 「っ……~~っ、誰が、お前なんかに!」 「そうか、残念だ。────レオ、ここを任せる。リアムを外に出すな。それから誰も中に入れるな」 「はっ」  レオが敬礼すると、ルイはリアムから背を向ける。 「待、て……っ、ルイ」 「遊びの時間は終わりだ。俺はこれから仕事がある」  そう言って振り返ることもせず部屋を出て行った。仕事があるなら頼んだところで抱いてくれないじゃないか、と腹を立て、そんなことを少しでも考えた自分に苛立った。 「くそ……っ」  手首につけられたバングルを掻き毟り、枕を殴る。  じっとしていられなくて、寝台から下りると狭い部屋の中を何歩かぐるぐる歩いて扉に向かった。 「頼む、薬をくれ」  扉をドンドン叩き、外にいるであろう見張りの者に声をかける。 「いくら頼んでも薬は出さん。一週間も休めば治るんだ。静かにしていろ」 「だめだ、このままじゃ、魔力でこの部屋が壊れるぞ」 「脅しても無駄だ。できるものならやってみろ」 「じゃあ、せめてバングルを交換してくれ。吸収型に──」 「魔法を使わなければいい」  ピシャリと言い放ったきり、声をかけても言葉が返ってくることはなくなった。全く相手にする気がないようだ。  発情期で増幅し抑えきれなくなった魔力が体外に排出される、それすら許されないというのだろうか。  魔力が出そうになるのを抑えるが、理性が飛んだ状態ではそれも難しい。 「っう」  バングルに返された力のせいで腕に激痛が走ってリアムは小さく呻く。普通の魔法封じの道具ならとっくに壊れているが、(ここ)で使われているものはやはり強力らしい。

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