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第27話

 しかし、道具なら他にも種類があるのに、わざわざ痛みが出るようなものを使うなんて、とふつふつと怒りが込み上げる。 (なんで俺がこんな目に……!)  ヨロヨロと寝台に戻り、丸めた掛け布団にしがみついてやり過ごす。ひんやりして気持ちいいと思ったのも束の間、すぐに自分の体温が移って温くなる。  しかも、何故かルイとの情交を思い出してしまって、さらに体が熱くなった。 『くそ……なんだよこれ』  さらに一時間もすれば、堪えきれない程の波が押し寄せて、呼吸は浅くなりフェロモンの匂いも濃くなった。 (苦しい、も……むり) 『っ……痛』  次の瞬間、爆発音と共に壁や寝台が崩壊する音が響き渡り、ふっと体が楽になる。パラパラと木屑や砂礫が落ちてきて、リアムの頭や体にも降り積もる。  おそらく魔法封じ(バングル)が壊れたのだろう。出せなくて苦しかった魔力が、魔法を使わずとも体から抜けていくのを感じた。だが、それも束の間。何事だ、とレオが扉を開ける。 「──貴様、何をやっている!」  怒鳴り込みながら入ってきた彼は室内の惨状を見て、目を丸くする。 「だから、薬をくれって、言ったのに」  リアムの周囲は丸くへこみ、寝台は真っ二つに折れ、リアム自身も飛び散った破片で傷だらけになり酷い状況だ。手首につけられたバングルにもヒビが入り、効果は完全になくなってしまっている。  魔力が暴発した痛みで少しだけ理性を取り戻していたが、熱が体の中で渦巻いておかしくなりそうだ。性欲──すなわちオメガの特徴が強まるときは魔力も同じように膨れ上がる。  故に体内に押し留めておくのは不可能に近い。ただでさえ発情して理性が薄れている今、我慢できていたのが奇跡なのだ。 「は、ぁ……っ」 「動くな! そのまま腹這いになって手を頭に乗せろ!──おい、誰か! 特効薬と鎮静剤を持って来い! 縄もだ!」  呆気にとられていたレオが状況を把握すると、剣の柄に手をかけて直ちに鋭い声を上げた。  リアムが言われた通りに木片だらけの床に寝転がれば、彼はすごい勢いで駆け寄って、腰に下げていた魔法封じの手錠を乱暴にかけようとする。 「痛っ、おい、抵抗する気はない、から……もっと丁寧に…っ」 「魔法を使っておきながらよく言う」  取り押さえるようにぐっと肩を床に押し付けられて、リアムはくぐもった呻き声を上げる。 「ぐ……不可抗力、だ……薬がないとこうなるって、言っただろ」 「だとしたら凄い馬鹿力だな。ああ、全く面倒なことを……トビは何をやってるんだ。フィリップもいないのか?」  入室時に呼び掛けた仲間たちが中々応援に来ないことに腹を立て始めたのだろう。だが、タイミング良く二人が部屋の入口に姿を現した。   「うわっ、なんだこりゃ」 「魔封縄(なわ)とバングル持ってきたぞ」  一人は部屋の惨状を見て顔を顰め、もう一方は素早く状況を把握しながらこちらに歩み寄る。  

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