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第28話

「遅い。トビ、とりあえず薬を打て」 「あ、ああ、分かった。今やる」 「俺も手伝う」 「頼む。フィリップは縄で縛ってくれ」  呆然としていたトビと呼ばれた男は慌ててこちらに駆け寄ると、注射針のキャップを外す。  手伝いを申し出たフィリップは、リアムが魔法が使えないように縄を体に乗せた。魔法封じとしては触れていれば効果があるから、とりあえずの処置なのだろう。  ずしんとした縄の重みに呼吸が浅くなる。 「打つぞ」  注射を打つ際に暴れるとでも思ったのか体を二人がかりで押さえつけられて、リアムは息苦しさに小さく喘ぐ。  チクリと肩口に痛みがきて、もう一度同じ痛みが与えられる。少しすると眩暈と共に体が弛緩した。  鎮静剤か特効薬、どちらか一つで十分だろう、と言ってやりたかったが、この部屋の惨状を見たらそういう処置を取りたくなるのも無理はない。 (くらくらする。……気持ち悪い)  そうして念には念をということなのか、相当な長さの縄をだるまになりそうなほど体に巻き付けられた。  * * *  薬で力の入りづらくなった体を壊れた寝台の支柱に預け寄りかっている。そうして何時間経ったのかは考えたくもないが、しばらく前に部屋の外ががやがやしていたから終業時刻は過ぎた後なのだろう。  その喧騒も落ち着き、今は静寂を取り戻している。  と、そこに足音が聞こえた。カツ、カツ、と響くこの靴音は今朝も聞いたものだ。 「ルイ様!」 「……何事だ?」 「それがあいつ──リアムが部屋を壊しまして」 「なんだ、癇癪(かんしゃく)をおこしたか」  ルイが軽く笑う声が聞こえてくる。駄々を捏ねて物に当たったような言い方に、リアムは眉を顰めて不快感を表す。 「いえ、その……魔力が暴走したようで、本当に部屋を破壊してしまいまして……。鎮静剤と特効薬を打ち、今は落ち着いていますが、念のため手足にバングルをつけて縄で縛ってあります」 「そうか。苦労かけたな」 「このようなことになってしまい申し訳ございません。薬も使うなと言われていたのに……」 「いや、レオはよくやってくれた。こちらこそ厄介事を押し付けてすまなかった。下がっていいぞ」  そう言い切るのと同時に扉が開かれて、入ってきたルイは目を丸くする。 「……派手にやったな、リアム」  穴の開いた壁と大きく凹んだ床を見て、くつくつと喉を鳴らした後、感心したように目を細める。

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