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第29話

「バングル四つか。しかも一つは破壊、部屋も大破。特効薬に鎮静剤。発情期一つでこれとは費用が莫大だな」 「……初めから薬をくれるか魔法封じを外してくれれば、こうはならなかった。あと特効薬だけでも十分効いた」 「そうか。……にしても、ずいぶんと巻き付けたな。蛹みたいだ」  ルイのからかいを含む言葉を、リアムは鼻を鳴らして顔を背けることで跳ね返す。 「拗ねるな。今解いてやる」  そう言って縄の結び目に手をかける。 「今頃は可愛くなってると思ったんだがな」 「……魔力が高いんだからこうなるのくらい予測できただろ」 「いや、まさか軍事用の耐久性に優れた魔法封じ(このバングル)を壊すとは思わなかった」  腕と胴に何重にも巻きつけられた縄をゆっくり解かれる。強く縛られていた訳では無いが、ずっと同じ体勢だったせいで痺れた腕をゆっくり動かしてさする。   と、ふわりと香りが鼻先を掠めた。覚えのある甘くて妙な香りだ。それはやはりルイからするようで、発情がぶり返しそうになって、慌てて顔を背け誤魔化すように質問した。 「なんのために俺を連れてきたんだ?」 「なんの話だ?」 「奴隷として連れてきたんだろう? なのに、俺は……まだお前の相手しかしてない」 「なんだ、他のやつの相手もしたいのか?」 「そうじゃないだろ!」 「じゃあ、こき使われたいのか? 変わったやつだな」 「違う……。何もさせられてないのに食事や部屋を与えられて、なんだか気持ち悪い。……何が狙いだ?」 「お前のように魔力の強い者はよく知ってからでないと危険だからな。そのための観察期間だ」  こうして暴走することも想定外だった、と笑う。 「お前以外の者はもう仕事を始めている」 「は……発情期は?」 「薬を飲んでいるから問題ないな」 「!? なんで俺だけ!!」 「言っただろう? お前を番にすると」 「~~っ」  番にはならない。喉まで出掛かった文句はすんでの所で霧散する。感情に任せて怒鳴っても、喚いても、ルイがその言葉を撤回するとは思えなかったからだ。  代わりに静かに問いを重ねる。 「何で、俺なんだ? 番なら他にも──」 「またその話か。お前に心当たりはないのか?」  心当たり、考えてみても分からない。人より魔力が多いことと、それに比例してフェロモンが強いこと、容姿がそこそこアルファ受けすることが思い浮かぶが、この男はそんな浅慮な考えで番にしようとしているようには思えない。買い被りすぎだろうか。 「分からないのならこの話は終わりだ」 「~~っ、前に……前に会ったことがあるか?」 「どう思う?」 「真面目に答えてくれ」  ルイは仕方ないといった風にため息をつく。 「面と向かって会ったのは二回だ。それが思い出せないならこの話は終いだ」  いつ会ったのだろう。記憶に思いを巡らせてルイの面影を探すがすぐには見つからない。最近の話か、それとも随分と前なのか。聞いてもこれ以上は答えてくれなさそうだ。 (二回……。面と向かってってことは会話もしたのか? 二回も会ってれば忘れるはずはない。思い出せ、思い出せ──)  頭の中で情報を整理していると、不意にルイの声が落ちる。 「──そうだな。手始めにこの部屋を直してもらうとするか。修復魔法は高度だが、お前ならできるんだろう?」  その言葉にリアムは頷く。一時思考中断だ。 「……ああ」

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