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第30話

「先に言っておくが、おかしな真似をすれば痛い目を見るからな」 「判ってる。お前らの基地で刃向かうほど馬鹿じゃない」  ここには大事な仲間もいるのだ。人質をとられているような状態で、おかしな真似なんてできるわけがない。奴隷の扱いに慣れた大勢の兵と鍛錬された魔術師たちに一人で敵うはずもない。  それに自国に裏切られたのなら、今更逃げ場もないのだ。 「ならいい」  ルイもリアムが仲間想いで一人で抜け出す気がないことを、この数日で分かったのだろう。軽く釘を刺す程度に留めて、部下を呼ぶつもりもないらしい。敵ながら不用心だと心配に思う。  ルイは手足のバングルを一つずつ外すと三歩程下がり部屋の隅の方へ避ける。  それを後目に見たリアムはふーっと大きく息を吐いて、元の形状を頭の中で忠実に思い浮かべる。 「──レストレイム」  散らばった石屑がふわりと浮かび上がり、元あった場所へ戻っていく。壁や床が元通りになると、今度は真っ二つになった寝台を軽く寄せ合わせて、同じ様に呪文を唱えた。  合間に自分についた擦り傷も治癒し、埃も部屋の外へ追い出し、魔法で簡単に掃除しておく。  部屋が完全に直るとルイが「ほう」と感嘆の声を漏らした。 「手際も良いな。今でどれくらい魔力が残ってる?」 「────」 「正直に答えろ。測定器で測れば嘘なんてすぐバレる」 「なら、測ればいいだろ」 「測られるのは嫌だろう。お前の言葉を信用してやると言ってるんだ」 「……そうは聞こえなかった」  そう答えれば、目線で早くしろと促してくるので仕方なく口を開く。 「感覚的には九割……いや、九割八分くらいか。少し休めばすぐ戻る。薬を打たれてなければここまで消耗しない」 「魔力も魔法もなかなかだな。バングルも直せるか?」 「それは……無理だろ。魔法が効かないから、弾かれるか、さらに壊れるか」 「まあそうか」  そう言いながらバングルを手首につけてくる。 「なあ。これ……つけないとダメか?」 「規則で最低十日はつける事になっている」  最低十日、おそらくそれ以降は奴隷として従順で優良な者は外してもらえるのだろう。  魔法封じの鉱物と相性が悪いリアムはすぐに気触(かぶ)れてしまう。思わず溜め息を漏らしそうになって顔を逸らした。 「少し赤くなっているな。あとで手当てさせよう。それから布を巻けば楽になるはずだ」  そう言って胸元から取り出した手巾をバングルに巻き付けてくれる。先ほど治癒したばかりだからよく見なければ分からない程の事なのに、よく気がついたなと驚く。

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