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第32話 (Ⅲ)

Ⅲ  薬のおかげもあり平穏に過ごせた一週間。発情期(ヒート)もようやく明けて、久しぶりにスッキリとした朝を迎えた。だと言うのに、今の気分はどんより曇り空。  何故なら朝一番に訪ねてきたルイによりいつものバングルが外され、代わりに足へベルトをつけられたからだ。  リアムは眼前の男を一瞥してから靴を履く。  これは電気のようなものを流して痛みを与え、しばらく動けないようにする道具だ。主に奴隷を躾けるためや拷問に使われているらしいが、逆らった覚えも抵抗する気もないのに何故こんなものを、とリアムは眉を顰める。  そんな疑問を読みとったのかルイは宥めるように言った。 「外に出るときは着用するのがルールだから我慢してくれ。今日は朝食をとったら一緒に来てもらう」  「……どこに行くんだ?」 「土砂崩れした地域の復旧だ。今日からお前も仕事だ」  ルイはそう言って朝食を食べるよう促すと部屋を出て行った。  ずっと仕事内容が気になっていたが、思っていたよりも普通だ。  それにも、最初にしたあの日以来していない。幻滅したのか、元々淡白なのか、単に忙しいのかは不明だが、リアムにとっては都合が良い。  そんなこんなで、ここでの生活も悪くないと思い始めている自分がいる。養成所よりもこちらの食事の方が美味しいのもその一因かもしれない。加えて、抑制剤も母国の物よりこちらの物の方が副作用も少なく効き目がいいのだ。  食事を終えた後はルイの指示通り、連れてこられた時に着ていた服に着替える。  光沢のある白地に金糸でいたるところに施された刺繍は、見た目の美しさもさることながら実用性も兼ねている。  金糸が魔力を高める草──シャルの繊維から作られているので、魔法を扱う者が着ると、攻撃力や修復力など全ての分野で能力が上がるのだ。  大変高価な品だが、養成所の最終試験に合格した際に、リアムの教室を受け持っていた教師から「アーレント宛ての贈り物だ」と言って渡された。  差出人を尋ねても答えられないと言っていたが、なんとなく母が贈ってくれたのではないかと思っている。そうだったらいい、という願望だが。 「支度は済んだか?」  ノックもなく入ってきたルイのお供のような部下──レオに連れられて廊下を進み広間に出た。そこには軍の制服らしいものを着たオメガがたくさんいた。  中には見知った顔触れもあり、よく一緒にいたノアやラファエルの姿を探す。

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