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第33話
『リアム……! 良かった、無事だったんだね』
久しぶりに聞く母語に振り返れば、そこには同じ養成所で過ごした同期の姿があった。
『ああ、ジュリアンも』
『全然見かけないから、皆で心配してたんだ』
『もう何度か仕事してるのか?』
『うん、リアムは初めてだよね?』
養成所にいた頃は用のある時──魔法の授業で同じ班の時──くらいしか話したりしなかったが、それでも久しぶりに馴染みの顔を見て、肩の力が少しだけ抜ける。
『ちゃんと仕事をこなせば凄く待遇いいけど、逆らうと戦場の第一線とか危険できつい仕事に回されるみたいだから……抑えてね』
『ああ』
心配そうに忠告してくるジュリアンに頷く。きっと養成所での出来事を思い出して、そう言ったのだろう。
間違ったことを言う先生に反論して何度も揉めたことがあるリアムなら今回もやりかねない、と。
不正や筋の通らないことは大嫌いだが、奴隷の立場でそれをやったらただでは済まないだろうから、ジュリアンの忠告を肝に銘じる。
『ノアは?』
『今日は違う現場だけど、朝会ったよ。リアムのこと心配してた』
『そうか……』
ルイから無事だとは聞いてはいたが、半信半疑だったのでジュリアンからそれを聞いてようやく胸を撫で下ろす。この分だと恐らくラファエルも大丈夫そうだ。
指揮官であるルイが仕事内容を一通り説明すると、皆で移動となる。総勢二百名程いるが、その内の半数以上がルーティア人とヴェルターニ人の奴隷だろう。
隊は三十名前後で編成されており、リアムが所属している隊にはヴェルターニ人が多い。
現場はすぐ近くだそうで、機材等を持っても徒歩で三十分とかからずに着いた。
(うわぁ……)
そこは土砂や倒木、岩など様々なもので、建築物が埋もれ流され壊されていた。
こういった災害は母国でもあったし情報誌でも見たりしたが、実際の現場は写真で見るのとはまるで違う。
あまりの悲惨さに胸が苦しくなった。きっと犠牲者はたくさんいたはずだ。
無理やりこの国に連れてこられたとは言え、この国の民間人までもを憎む気持ちはないし、死傷者が出るのはやはり悲しい。
瓦礫をどけた痕跡や端の方に綺麗に寄せられた木々もあるから、恐らくこれでもかなり撤去されているのだろう。
「お前たちにはこの岩をそこの台車に乗せてもらう。細かくしてもいいし、そのまま乗せてもいい。やり方は任せるがこれ以上被害は出すな。リアムが指揮を執れ」
「え、俺が……?」
リアムとは出身の違う奴隷たちは不快感を露わにし、リアムが指揮を執ることに対して聞こえる声で嫌味を言う。
その様子から奴隷の中でも派閥があるのだと分かった。
(愚痴なら母語で言えばいいものを、わざわざローレニア語を使うとは……面倒そうな奴らだな)
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