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――………… ――…… 「はあ……はあ……っ、クソッ!!」 片桐は、乱暴に自分の部屋の扉を閉めると、苛立ちをこめて壁を強く殴った。 「クソが!!!」 もう一度、強く壁が殴られる。 「くそくそくそ!!  なんでっ…… 俺が……っ!!」 その後も片桐は、手に血が滲む程の力で、壁を何度も殴り続けた……。 ――………… ――…… 片桐維弦は、神崎遊星を病的に愛している。 否、それは、愛などではなかった。 愛などという理想的なものではなく、異常な依存。 片桐は、幼い頃に事故で母親を亡くしていた。 事故に遭う前、維弦と母は偶然、ちょっとした喧嘩をしていた。 維弦がよくある子供のわがままを言って、母を困らせた。 母はそれを叱り、維弦が母に謝る前に、母は不運な事故に遭って亡くなってしまった。 その事を悔み、悲しんで、維弦は何日も部屋に引き籠り、泣くだけの日々を過ごした。 片桐家の近所に住む遊星は、毎日維弦の家に通い、維弦を励まし続ける。 「維弦のお母さん、怒ってないよ」 「維弦のこと、恨んでないよ」 「維弦のせいじゃないよ」 「……だから、大丈夫だよ」 遊星は、維弦に優しい言葉をかけ続けた。 毎日諦めず自分の元に通い、声をかけ続ける遊星に励まされ、維弦は明るさを取り戻す。 ずっと休んで居た学校へも、少しずつ行けるようになって……。 精神が弱っていた時に自分にどこまでも優しくあった遊星に、維弦が依存するのは当然と言えた。 幼き日に、維弦は、遊星へのある種の忠誠を誓った。 ――諦めずに自分を励まし続けてくれた遊星に、いつか必ず恩を返す。 それが、維弦の生きる意味だった。 生きる気力を失った維弦は、遊星を愛す事で再び気力を取り戻した。 ――維弦は遊星に依存していたが、遊星はそうではなかった。 思春期になれば、ごく普通に恋をする。 遊星は昔から、大人しくて内気な人を好きになることが多かった。 維弦とは正反対のタイプであった。 深い意味はなく、ただの好みなのだろう。 維弦は、遊星が自分以外をかまい、自分以外と話をするのが気に食わなかった。 醜い嫉妬に、自分の心が支配される。 維弦は影で、遊星が好きになった子たちを虐め続けて来た。 遊星があの子が好きだと言うたびに、維弦はその子を虐め、ちょっかいをかける。 最初は軽いものだったが、そんな事を続けるうちにどんどん過激になっていった。 何度憎い相手を虐げても、遊星が自分に振り向いてくれないという苛立ちが、彼を焦らせた。 その焦りが、益々維弦の心を蝕み、壊して行った……。 「クソ……!」 ――今の学校へ入り、遊星が向井を好きになった。 好きになった相手が、自分達と同じ性別だったことが、維弦とって大きな不満だった。 ――男も好きになれるなら、何故俺を好きにならない? 俺はこんなにお前の事を思っているのに、何故お前は一向に俺に振り向いてくれない? 俺は幼い頃からお前の事が好きなのに、どうしてお前は俺以外を好きになる? 維弦の心は、どんどん闇に蝕まれて行った。 とにかく向井が、憎たらしかった。 だから嫌がらせを重ね、性的な暴力を振るった。 嘘っぱちの甘い言葉を吐いて、自分に惚れさせた。 遊星が好きになった人を自分に惚れさせた事は、過去にもあった。 幸い片桐は顔立ちが整っており、表面上は明るく社交性もあった。 誰かを自分に惚れさせるのは、得意だった。 飴と鞭を上手く使い分けて、決して遊星に他の恋人が出来ないようにコントロールして来た。 ――目的の為なら、なんでもする。 それが、片桐維弦という男だった。

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