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第5話

 メモを見ながら農産コーナーの前をうろつく金髪を安住は掴んだ。 「痛っ、なんだ?」 「これ買い忘れる」  青明(はるあきら)は畜産コーナーに行きかけていたが安住に連れられ戻っていく。指差した野菜とメモを彼は確認した。 「悪い」  彼は素直に謝った。安住は少し前に見た林檎みたいな瞳から目を逸らした。 「あと生卵と、豚挽肉と…」  メモを見ながらぶつぶつと読み上げ、買い物カゴを持つ横顔をぼけっと眺めた。 「なんだよ」 「寝違えた。腕痛い?」  買い物カゴを見遣れば、青明は鼻で笑った。 「気にすんな」 「うん」  人々が品物を見ている青明を見て、その人々ひとりひとりを安住は眺めていた。黒と紫の衣から着替えてはいたが、そうでなくとも金髪の美青年は目を引いた。  会計が済み、ビニール袋に包まれた生卵を渡される。 「生卵守っとけ」 「うん」  ひょいひょいと手際よく青明は袋詰をしていく。安住は生卵を横にして抱き締めた。 「両手塞がると危ないって生命尊が言ってた」  調理場まで両手で荷物を持って歩く青明に生命尊はそう言って、片方奪っていくのを見たことがある。重そうな買い物袋を両手に持っている彼に手を差し出す。彼は少し頬を紅潮させ、目を逸らしながら断った。 「…いつものことだし、元は俺の仕事だからな。お前は生卵守っててくれ」 「うん」  こくりと頷いてビニール袋に包まれた生卵のパックを抱き締める。  境内にある宿直所の玄関で生命尊(みこと)が出迎えた。腕を組んで上がり(かまち)から2人を冷ややかに見下ろしていた。 「安住と一緒だったのか?」 「はい…」  青明は身を小さくして答えた。生命尊の態度や声音は高圧的で、蔑んだ眼差しは隣の安住にも変わらなかった。 「散歩じゃないんだぞ」 「はい…気が緩んでいたのかも知れません」 「…なんで生命尊、怒ってる?」  安住は訊ねた。生命尊はこれ見よがしに嘆息した。 「怒ってなどいない。ほら、貸すんだ。ここまで重かっただろう?」  師に手を伸ばされると比較的軽いほうを弟子は申し訳なそうに差し出す。 「そっちもだ」 「ですが…」 「遠慮するな」  強く押され青明はもう片方の買い物袋も手渡した。そして安住の抱えていた生卵のパックを受け取り、生命尊の後を追って調理場へ向かっていく。 「買い忘れはないな、いい子だ」  調理場のドア前で先程とは反対の色を帯びた声が聞こえた。安住は構わずドアを開く。生命尊はまったく気にも留めなかったが青明の赤い双眸は来室者を捉えた。金髪の上を形のいい手が撫でている。 「あ…それは…安住が、」  戸惑いながら気拙そうに青明は説明したが、師の唇が続きを奪う。触れただけで離れていく。 「いい子だ」  金髪の上にも師の唇が落ちた。青明は顔を桃色に染めて、俯いてしまう。 「じゃあ、また夜に逢おう」 「え、あの、今夜も……?」 「嫌か?」 「い、いいえ…嬉しいです。とても…」  金髪が揺れた。きらきらと煌めく様をじっと見ているとその脇を主人がすり抜けていった。 「どう思う…?」  買い物袋の中身を冷蔵庫にしまいながら青明は問う。安住は答えなかった。 「揶揄われてるのかな、俺…」  赤い目は弱気になっていた。冷蔵庫が警告音をピーピー鳴らしているが気付く様子もない。動きの止まった金髪に手を差し込む。 「なんだよ」 「生命尊がこうすると喜ぶ」 「お前は生命尊様じゃないけどな。でも、ありがとよ」  丁寧に自身の髪に触れる手を彼は外し、一度冷蔵庫のドアを閉めてピーピー鳴っている警告音を止めた。 「あと、お手伝いさんきゅな」 「卵守れた?」 「10個全部無事だ。任務完了、帰還するであります、だな」 「うん」  長い指にわしゃわしゃと髪を掻き乱される。彼ほど長くない地味な髪を楽しそうに撫で回される。安住は自分に喉を鳴らす機能がないことを知った。

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