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第24話
「生命尊 様に…でございますか…」
「私だと何か不都合でもあるのか」
「…いいえ。護手淫 を施させていただきます」
青明 の口調は強かった。衣擦れと吐息の音が簾を隔てて鼓膜を振動させた。列なった竹と竹の隙間から下半身を扱く青年の姿が浮かび上がる。金髪が焦らすように肩でたわみ、揺れている。
「護手淫は自慰ではない」
「…っは、い…」
「お前は参拝者をそんな風に見つめて護手淫を行う気か」
「い…いい、ぇ…っ、」
青年の肩が震えている。下半身のものを擦る手が速まった。青年の吐く荒い息も濃くなった。
「自慰の域を出ないな」
師は冷めた態度でそう言った。弟子の前に膝を着いて姿勢を低くしていたが徐ろに立ち上がる。
「そ、んな…待って…お待ちくださ…っ」
言葉で突き放した弟子を師は抱き竦める。
「やはり別の関係としてここにいるのがいいんじゃないか。私の夜の相手に甘んじていたほうが…」
「そ、んな…どうして…そんのような、ことを…おっしゃるのです…」
青明の押し潰された声が、安住のあるはずのない胸部の臓器をも押し潰す。
「私もその方が楽だからさ。出来の悪い弟子を持つと外聞も悪い」
簾の奥の重なった人影が傾く。
「おやめ、ください…!生命尊様!生命尊様っ!い、ぁあっ」
安住は顔を覆った。敷かれた青年が掠れた悲鳴を上げる。唇は生命尊を呼ぶが、主人に届ける力は残っていなかった。
「あ…ッ痛い、」
「後ろを使って、独りで慰めているものかと思ったぞ」
「痛…ッあ、ぁあっ…」
護手淫の最中に耳にする摩擦音がたち、高い声が響いた。安住は簾に手を掛ける。訳の分からない重みを胸に感じた。
「前を弄ったらこれだ。護手淫を何だと思っている?俗世に生まれたお前には向かなかったのだ。祭祀者の道は諦めよ」
「いっ、んぁァっ…あっ!」
「あんなにいやらしく護手淫を施すやつがあるか。参拝者も善徳に生きているわけじゃない。お前をこうするだろうな、あの社殿で」
布団の中で聞いた鼻奥の雪崩れる音に、もう安住は簾を開いていた。顔を覆う青明の眼球が蝋燭に照り、溶けてしまいそうだった。彼の中途半端に晒された下肢に跨る主人を安住は叩いた。
「安住…?」
青明の濡れていた赤い瞳が表情を変える。主人は安住を冷めた黒真珠で一瞥するだけだった。祭祀服に包まれた腕を掴んで引いた。
「やめろ、安住!生命尊様にそんな真似するな…」
青明が起き上がる前に、主人によって顎を掴まれ背後から捕らえられる。社務所に入り込んだ野良猫に青明がよくやっていた。冷たい手は思いのほか強く、喉がしゃくりあげる。青明の目の前に突き出され、赤い瞳が真っ直ぐに射さった。
「安住、どうしたんだよ…?」
「安住はもう喋らない」
「え?」
硬い素材の敷物の上に放られる。
「安住…っ!生命尊様…?」
安住を気にした青明を師は許さなかった。腕を掴んで再び組み敷いた。安住は立ち上がり、もう一度主人を青年から引き剥がそうとする。
「護手淫もまともに体得できぬ者には必要なかろう」
青明は唇を噛む。師は彼の頤 を捉え、合わさった唇に指を挿し入れる。安住は首を振った。耳を髪が打つ。
「私の愛人になれ。嫌だと言うなら出て行きなさい。お前に祭祀者は無理だ。潔く諦めなさい」
口の中を指で弄ばれ、彼の口角から唾液が滴っていく。桜色の舌を掻き回され、頬が染まっている。
「ぃっ、ふぁぁ…っ、ぅや、い、や…れ、す、」
金糸が散らばって、波のようだった。
「辞めると言いなさい…!お前には無理だ。一体何が出来る?」
安住は主人を剥がそうと躍起になり、生命尊は弟子に迫る。
「嫌です、生命尊様…今の倍、努めます…!今の3倍でも、4倍でも…!」
生命尊の胸が鳴った。弟子から顔を逸らして咳をする。引き剥がす腕を払い、口元に手を当て、激しい咳嗽が室内を占めた。赤い双眸が惑っている。安住の庭石を詰め込まれたような胸部も連動して掻き乱される。
「生命尊様…?」
生命尊の口元で体液が破裂する。
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