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第2話 隆文の部屋

 午後九時を過ぎて、暫く寛いでから隆文の部屋へ移動する。彼の部屋は大き目のクローゼットに何でも仕舞われているのか、無駄な物が置かれていない勉強部屋といった印象だった。  ふと、雪弥は隆文の姉の所在が気になった。 「お姉さん、今日は何処か行ってるの?」 「ああ、今日は男のとこ行ってて、帰って来ない。…親が夜勤の時、アイツ、自由過ぎるんだよ。」  隆文が壁を睨み付けた。その壁の向こうには姉の部屋がある。  雪弥は隆文から辛辣な空気を感じ取った。 「…何かあった?」  訊いていいのか迷いながらも雪弥は問う。 「一昨日くらいからかな、鹿倉、ちょっと様子が変な時があったよね?」  ここ最近の隆文は、時折ぼんやりしている時があり、落ち込んでいるような表情も垣間見えていた。 「うん、ちょっとね。…俺、そんなに分かり易かった?」  いつも快活な笑みの印象の隆文なのだが、やはり何処か陰りが窺える。 「僕で良かったら、話、聞くけど…。」  雪弥が真摯な目を向けると、僅かな逡巡の後、隆文は口を開いた。 「三日前かな…、姉ちゃんの友達が泊まりに来てて、姉ちゃんが長風呂してる間にさ、その女の人に童貞奪われた…。」  隆文の言葉に、雪弥は衝撃を受ける。 「え…?それって…。」  雪弥は戸惑いを隠せないまま、言葉の後半を無くした。それが合意の下に行われた行為ではないと、察したからだった。 「お前には無縁な出来事だよな…?」  言葉を失った雪弥に、隆文はひねた笑みを浮かべてみせた。 「…ご免。」 「雪弥って、オナニーすら経験ないって顔してるし…。」 「そんなこと…。」  否定しようとして、雪弥はやめた。周囲から純粋に見られている自覚があったし、その印象を捨てたくなかったからだった。  その態度が、隆文に嗜虐心を与えてしまうとは想像もせずに。―― 「俺が教えてやるよ。」  急に豹変したようになった隆文が、雪弥の体をがっちりと押さえ込むと、股間に手を這わせ、刺激を与えてきた。 「嫌だ!やめて…!」 「やめない。」  雪弥が反応してきた処で、ハーフパンツと下着が一気に下げられる。雪弥の日に焼けてない部分が露になった。 「あれ?意外と先っちょ、成長してんじゃん。…結構、頻度高めでヤってんの?」  雪弥はびくりと反応する。  雪弥には、誰にも知られたくない秘密があった。 「知らない!…もう、放してよ!」 「でも、雪弥の勃ってるよ。…俺のと一緒に擦ってみようよ。それなら恥ずかしくないだろ?」  ベッドを背にするとこまで追い詰められた雪弥は、隆文の熱い塊が、自分のそれに合わせられたのを感じた。 「やだ!…ああ…あ…あ…!」  雪弥は両手で顔を覆い隠すも、上り詰めていく自身を隠すことが出来なかった。  やがて、二人ほぼ同時に吐精する。二人分の精液が、雪弥の下半身を汚した。  乱れた息の中、雪弥がそっと目を開けると、まだ固さをキープしたままの隆文のものが、開かれた雪弥の足の間にあった。 「…それ以上の事はやめて!」  雪弥が咄嗟に懇願すると、隆文は首を傾げた。 「それ以上って?…何だよ?」  雪弥の膝裏に手を掛け、両足を持ち上げた隆文は、床にずり下げられ、逃げ場のない雪弥の下半身を観察した。 ――お願い、気付かないで…!  雪弥が願うも、隆文はある一点に目を留めた。 「あれ、なんか…ココ、挿入(はい)りそうなんだけど…。」  ひくつく雪弥の後ろの窪み付近を、更に膨張した隆文のそれが、様子を見るように往復する。 「ダメだよ!鹿倉!…それ、やめて…!」  やがて隆文のものは一点で止まり、そこを一気に突き進んできた。  雪弥は声にならない悲鳴を上げた。 「はいっ…た…。挿入(はい)っちまった!…雪弥の中、すげぇ…!」  雪弥の感情とは裏腹に、彼のそこは当たり前のように隆文のものを咥えこみ、精を搾り取ろうと動いてしまう。  律動が始まると、自然に熱い嬌声が洩れた。 「雪弥も…気持ちいいのか…?」  雪弥は答えずに、隆文が達するのを待った。 「…男だし、妊娠しないから、…いいよな?」  酷く興奮したような隆文の声が、雪弥の耳元で響いた。何をされるか察した雪弥は、流石に抵抗を見せる。 「中は嫌だ!…やめて!抜いてよ!」 「無理…!も…出る…!」  激しく腰全体をぶつけられた瞬間、雪弥の中に熱いものが放たれた。  行為の後、隆文から解放された雪弥は、無表情で立ち上がった。その足の間を、隆文が出したものが伝い流れる。 「雪弥、シャワー浴びに行くか?」  少しだけ悪びれた様子の隆文が声を掛けると、汚れるのも気にせずに、雪弥は下着とハーフパンツを身に着けた。 「帰るよ…。」  そう一言だけ呟くと、雪弥は荷物を手にして、隆文の部屋を出た。  暗い廊下を足早に歩く。隆文が追い掛けて来る気配はなかった。 ――隆文があんな事するなんて…!  鹿倉家の玄関を出ると、堪えきれず、雪弥の目から涙が溢れ出す。  隆文に対する憧れや信頼が、一気に崩壊していくのが分かった。  住宅街の路地は外灯で意外に明るく、雪弥は必死で涙を止める努力をしながら一人、歩く。  震える足取りで自宅を目指していると、前方に男性と見られる影が近付いて来ていた。それが誰なのか気付いた雪弥は、反射的に涙を引かせた。 「雪弥、よかった会えて。姉さんから鹿倉君という友達のところにいるっていうから、住所を聞いて、迎えに来たんだ。」  男は雪弥の叔父の栄志(えいし)だった。  栄志は雪弥の母の七つ下の弟で、三十代前半の落ち着いた雰囲気を纏っている。 「どうかしたの?」  栄志が雪弥の涙の跡に気付いて、顔を覗き込んできた。 「鹿倉君と喧嘩でもしたの?」  雪弥は語ることはせず、無言で頷いた。栄志は優しく雪弥の頭を撫でる。 「姉さん達、離婚する事が決まったよ。…義兄さんは辞職して来たみたいで、社宅だから直ぐにでも出たいらしい。」 「そう…。」  雪弥は調度いいと思った。両親どちらに着いて行っても、転校は免れられないだろう。そうすれば、二度と隆文に会わなくて済むのだ。 「あのさ、雪弥。…俺と一緒に暮らさないか?今、精神的に参っている二人のどちらにも、雪弥を任せておきたくないんだ。」  栄志が雪弥の華奢な体を抱き締める。  雪弥は叔父の胸に体を預けながら瞳を閉じ、口の中で小さく「嫌だ」と音を立てずに呟いた。  それでも、叔父に逆らえない事を雪弥は知っている。  雪弥にとっての唯一の希望は、自分を傷付けた鹿倉隆文の前から姿を消せる事だった。

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