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第9話 奥の部屋

 黒を基調とした部屋のベッドの上で、栄志は薄っすらと目を覚ました。部屋に窓はなく、時を示す物はなにもない。 「…気分はどう?栄志さん。」  頬に流れる髪を耳に掛けながら、雪弥が栄志の顔を覗き込んだ。その横には長身のレイジがいて、背後にも数人、誰かがいる。 「ここは…何処だ?」  栄志は起き上がろうとして、両手、両足を、ベッドの四方に取り付けられた鎖付きの枷で、拘束されている事に気付く。スーツは上下とも脱がされ、シャツと靴下だけを身に着けた姿にされていた。 「…ここはレイジさんの店の、奥にある部屋だよ。今夜はね、僕の代わりに彼らが栄志さんと寝てくれるって。」 「うちでも選りすぐりの子達よ。きっと、満足して頂けると思うわ。」  雪弥と店のマスターであるレイジの紹介を受け、三人の男が栄志の傍に寄って来た。  各々、自己紹介を始めたようだったが、聞く気のない栄志は鎖を鳴らし、抵抗する術を探した。 「おい、冗談はやめるんだ!」  栄志は思わず、雪弥に対して怒声を上げた。それは初めての事だった。  雪弥はいつも従順で、怒鳴る必要がなかったからだ。 「冗談でここまでしないよ。彼らにお金、もう払っちゃってるからさ、楽しんでよ。…僕の奢りなんだよ。」  それに対して、怯む事さえしない雪弥に、栄志は些かショックを受けた。 「奢りって、俺のカードだろ?」  栄志は納得出来ない、といった顔をする。雪弥には自分名義のクレジットカードを一枚渡しており、現金を持たせた事はなかった。それは使い道を把握し、彼の行動を管理する為の一環だった。  雪弥はスーツのポケットから、スマートフォンを取り出した。それは栄志が与えたものではなかった。  いつの間に契約したのかと、栄志が驚いていると、雪弥はとあるアプリをタップして、その画面を見せて来る。  それは電子マネーの残高の画面だった。三十万程の残金がある。 「これは日本円に換金した、ほんの一部。スウェーデンの銀行口座には、もっとあるよ。」  どこか勝ち誇ったような笑みを湛えた雪弥は、スマートフォンを仕舞った。 「…栄志さんは僕の全てを、管理してるつもりだったかも知れないけど、マネージメントを任せて貰えるようになってから、毎回、幾らか、ちょろまかしていたんだ。気付いてなかったでしょう?」  栄志は掠れる声を絞り出す。 「雪弥…どうして?」 「どうして?…それは僕達が恋人同士とか、そう言った甘い関係ではないからだよ。あなたと僕は叔父と甥。そして過去は悪い大人と、何も知らない子供だった。…だから僕は、あなたから逃げたいと、ずっと思っていたんだ。」 「…嘘だ!お前は俺と、離れて生きていけるというのか?」 「生きていけるよ。僕は栄志さん以外の人とも、抵抗なく楽しめるからね。」  雪弥はレイジに向かって手を伸ばした。  レイジが近付くと、雪弥は彼の首に手を回し、彼の唇を誘った。そこから濃厚なキスが始まる。 「雪弥!」  一層激しく鎖を鳴らす栄志に、三人のウリ専の男達が寄り添ってくる。 「ねぇ、オジ様、こっちも楽しもうよ。…ボクはルカ。さっきの自己紹介、聞いてくれてないでしょう?」  小柄でセミロングの、少女のような容姿の男、ルカが、栄志のシャツの前を(はだ)けさせた。  栄志は嫌悪を剥き出しにして、彼を睨み付ける。 「俺に触るな!…俺は雪弥としかしない!」 「えー!?それ、言われてみたーい!」  既に上半身裸になっている男が、羨ましそうに声を上げた。女っぽい仕草とは裏腹に、その体は鍛え上げられている。 「この細マッチョがレオ君で、そっちのイケメン風オネエがショウさんだよ。…ねぇ、誰からがいい?」 「雪弥ッー!!こんな事をして、ただで済むと思っているのか!?」  栄志は必死な形相で叫んだが、その視界に雪弥の姿は捉えられない。 「雪弥君は…今、レイジさんとシてるからダメ。」  レオが悪戯っぽく、(うそぶ)いてみせた。  三人からの愛撫が、栄志の体に施される。それでも栄志は頑なに拒み続けた。雪弥から受けたショックも相まって、下半身に反応は見られない。 「コレ、元気にならないね…。」  ルカが栄志の機能しそうにないものを、優しく扱きながら、呟くように言う。 「ソレ、勃たないと始まらないよ。」  既に全裸になり、自身の後ろも準備中のレオが、心配そうに栄志の下半身を覗き込んだ。   「誰が、お前らなんかに勃つか!」 「失礼だね!毎日、誰かしら勃たせてますぅ!」  その遣り取りを見兼ねたショウが、何やら道具を持ってきた。  それは直径8ミリ、長さ16センチ程のステンレスの棒で、よく見ると、球体が連なっているような形をしている。 「…いきなり上級者向け過ぎない?」  その道具に、ルカは少し引いているようだった。  落ち着いた雰囲気のまま、ショウが栄志の顔の前に、それをちらつかせる。 「これ、尿道ブジー。知ってます?…慣れてないと、大変なんだけど。…私は元看護士だから、安心してね。」 「お前が俺に注射をした奴だな!?」 「そうよ。一瞬だったでしょう?…でも、これは一瞬ってワケにはいかないわよ。」  ショウはブジーに栄志の視線を固定させると、ゆっくりとした動作で彼の下半身へと近付けていった。 「君…!お願いだ!…それはやめてくれ!」  急に栄志は態度を翻し、懇願を始めた。  しかし、それは聞き入れられず、一向に反応を見せない栄志のものの先端に、ひんやりとした感触が宛がわれた。 「…やめろ!…そんなモノ、入れるな!…ああ…あ…。」  連なる球体が、ひとつ、またひとつ、と栄志の中に侵入していく。  全てが納まった処で、ショウが奥を探るようにブジーを動かした。  すると栄志は、今までに味わった事のない、痺れるような快感に襲われた。 「…どう?尿道からの前立腺への刺激って、たまらないでしょ!…これで勃起しない人はいないんだから。」  壁に凭れながら、その光景を眺めていた雪弥は、不意に込み上げて来た涙に驚き、こっそりと部屋を出た。

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