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第7話

 小学校に上がる前、電車を見るのが好きで近くの駅に通い詰めたことがある。  その頃の俺は住んでたアパートの周りとか保育園までの道のりくらいしか知らなかったから、電車が未知の世界に繋がる夢の乗り物に見えたんだ。  そんなふうに思い続けてた俺をさらに強く電車にハマらせたのは、間違いなく母ちゃんだ。  電車に乗って仕事に行ってた母ちゃんが、何故か俺が保育園で何してたか知ってて「母ちゃんは仕事してたってアンタのこと見てんのよ」なんて言うもんだから、電車が到着した先には俺の行動を監視出来るスゲェシステムがあって、きっと母ちゃんは雲の上の神様みたいにずっと俺を見てるんだと思った。  実際は母ちゃんが保育園に電話して先生にあれこれ聞いてただけなんだけど、俺は母ちゃんの言葉にビビりながらそれを素直に信じたんだ。  電車に乗ってけばアニメで見たような未来都市に辿り着くと思い込んだ俺は、まだ1人で電車に乗れなかったから電車を追っ掛けて線路沿いを歩いてって、結局迷子になってめっちゃ母ちゃんに怒られた。  初めて切符買ってもらった時にはもうそんなブッ飛んだ空想はしてなかったけど、大人の仲間入りしたみたいな気分に加えて、まだなんとなく電車に夢を抱いてたこともあって、めちゃくちゃ感動したのを覚えてる。  流石に今は電車に乗ってワクワクすることなんてないけど、知らねぇ駅に初めて降りた時は今でもワクワクする。  ……が、今日だけはワクワク出来ねぇ。 「なぁ、ムッチ。俺どこまで付き合えばいい訳?」  駅のホームを歩きながら、斜め前にあるムッチの後頭部に声を投げる。  昼休み終了のチャイムが鳴ったあとムッチに電話でグラの居場所を教えて教室に戻ったら、教室で待ち構えてたムッチに捕獲されて学校の外に連れ出された。  なんとこのヒゲ、1人でグラんち行くのが嫌らしい。  つか、正確には「グラんちのある辺りに1人で行く勇気がない」なんだけど、下手な言い訳だよな。  あんな必死にグラ探してた癖に、今更何言ってんだって感じだ。 「グラんちまで付き合えとは言わねぇからさ、とにかく一緒に来てよ」  ムッチが歩きながら俺を振り返って言ってくる。 「なんで1人じゃ行けねぇんだよ」  電車に乗ってる間、何度聞いても適当言ってごまかされたことをもう一回聞いてみた。  俺を見たまま立ち止まったムッチに釣られて、俺も立ち止まる。  ちょっと間を置いてムッチが口を開いた。 「ホントのこと言っても帰んない?」  ……なんだよ、その前振りは。  聞いたら帰りたくなるようなことなのか?  でもそんなこと言われっと余計気になる。  けどなんか聞くの怖ェな……。 「内容による」  俺はとりあえず話を聞くだけ聞こうと思って、イエスでもノーでもない答えを返した。  そしたらムッチは、 「じゃあ言わねぇ」  そう来たか。  だったら俺も、 「じゃあ帰る」 「ちょっと待てマサヤンッ。ここまで来たんなら最後まで付き合ってよっ」  慌てて俺の目の前まで来たムッチに両腕を掴まれた。  見上げてくるデカイ目がうるうるしててチワワみたいだ。  めっちゃ救い求められてるよ……。  どうする俺……。  つか、ムッチがこんな顔するってよっぽどのことなんじゃねぇか?  こりゃ聞かねぇほうがいいような気がするぞ。なんか怖ェし。  でも気になる……。 「とりあえず理由言ってよ」  内心ビクビクしながらムッチに聞いてみたら、 「……ヤンキー多いんだよ、ここ」 「帰る」  俺は呟いたムッチの腕を渾身の力で振り払いながら回れ右をした。  俺1人だったらどうかわかんねぇけど、本人にその気がなくても「喧嘩買いますよ」って言ってるみたいな悪人面のムッチと一緒にいたら絡まれる確率高くなるじゃんか! 「待て待て待て待てっ。狼の群ん中に僕みたいなか弱いウサギちゃんを1人で放り出す気かっ、マサヤンッ」  言いながら、ムッチが俺の手首を掴んでくる。  その力に引っ張られて出し掛けた足が浮いたけど、俺は前を向いたままなんとか踏ん張って、とにかく前進しようと頑張った。  ……全然前に進めません。 「これ《か弱いウサギちゃん》の力じゃねぇだろっ。ウサギちゃんは俺だっ。ムッチならヤンキーに遭遇してもなんとかなるっ。大丈夫っ」 「大丈夫じゃねぇよっ。ウサギちゃん同士仲良くしようよっ。ほら行くぞ、マサヤンッ」 「やだっ、絶対ェやだっ」 「ワガママ言うんじゃありませんっ」 「イテテテテテテッ。痛ェよムッチッ、手ェ離せっ」  俺は悲鳴を上げながら手首を掴まれてる腕を突っ張らせて抵抗し続けた。  ……ん?  なんか後ろのほうから視線を感じるぞ。  ムッチもそれに気付いたのか、俺の後ろに目を向けた。  気になって振り返ったら、制服を着た優等生風の女子高生2人組が俺達をガン見してた。  2人組は俺が振り返った途端逃げるように俺達の横を小走りで通り抜けてったけど、俺達から少し離れると小突き合いながらクスクス笑い出した。  きっとあの2人、 「高校生にもなって何やってんのかねー。恥ずかしくないのかなー」 「あれって馬鹿校の制服でしょー?やっぱり馬鹿なんだよー」  とか言ってんだろうな……。  恥ずかしいーっ。 「じゃあ行きますよ、マサヤン」  ……あれ?  足が勝手に前進し始めたぞ? 「って、引っ張るなーっ」 「静かにしなさいっ。女の子に笑われるでしょっ。さあマサヤン、ヤンキータウンにレッツゴー」 「イヤァーッ」  こうして俺はヤンキータウンに連行される羽目になった。  改札を抜けて階段を下りたら、そこはヤンキータウンだった。  階段の脇で、地べたに座って煙草吸いながら喋ってるヤンキー3人発見。  駅からちょっと歩いて通り掛かったコンビニの前に、やっぱり地べたに座って喋ってるヤンキーが4人。  こっちはカップ麺とかパンとかオニギリを片手にお食事中。  勿論普通の人達もいるけど、明らかに俺が住んでるとこより悪そうな奴が多い。  マジでヤンキータウンだ、ここ。  これじゃ確かに1人で来んのは嫌かもな。  なんて思ってたら、視界の先、道の脇のあんま広くない駐車場に、今まで見てきたヤンキー達よりあからさまにヤバそうな集団が溜まってた。 「……なんじゃアリャ……」  ムッチが唖然と呟くのも当然だよな……。  スキンヘッドで頭の横にタトゥー入れてる奴とか、眉毛ねぇ奴とか、ムッチより凶悪な髭面とか…………中でも黒のタンクトップの坊主頭が怖ェ。  俺達が学ラン着てるこの季節にタンクトップ1枚ってだけでも目立つのに、それより何より体格がスゲェ。  剥き出しの腕は丸太みたいで、体の厚みなんか俺の倍はありそうだ。  あのゴッツイ坊主に比べると、カッチは細マッチョくらいに思えてくる。  いや、カッチは細マッチョなんだ。  本物のマッチョってのはあの坊主みたいな奴のこと言うんだ……。  あと目立つと言えば、茶髪でウルフカットの普通っぽい奴が1人だけ混ざってんのが気になる。  でもやっぱ坊主のインパクトには敵わねぇな……。 「……怖ェよ。特に坊主怖ェ……」  俺も思わず呟いてた。 「……マサヤン、あんま見んなよ。目ェ合ったら殺られんぞ」 「……うん。ムッチもね」  そんなことを小声で言い合って、俺達は自然と早足になった。  とっとと通り過ぎたいんだよっ。  あんな連中に目なんか付けられたらマジで生きて帰れねぇってっ、絶対っ。  前だけを見て競歩しながら、究極にヤバそうな集団の前を無事通過。  俺とムッチはほぼ同時に足を止めて、2人でデカイ息を吐き出した。  その時、 「シュウちゃーん!」  突然背後から男の声がした。  俺達の後ろにいたのはあのヤバイ集団だけだ。  多分。  てかシュウちゃんってもしかして……。 「……ムッチ、呼ばれてるよ」 「……んな訳あるか。あんな怖ェ知り合いいねぇよ。僕じゃねぇ」  お互いの顔を横目で見ながらこそこそ話してたら、 「シュウちゃんっ。なんでシカトすんだよっ」  そう言って後ろから回り込んできたのは、あの中で1人だけ普通っぽいと思った茶髪だった。  目の前に立たれて気が付いた。  コイツ、全然普通じゃねぇ。  背も体格も俺と大して変わんないんだけど…………顔がCGみたいだ。  整い過ぎてて、羨ましいっつーより逆に怖ェ。  全体的には少女漫画から出て来ちゃった感じっつーか……なんかコイツの周りだけキラキラしてるよ……。  でもどっかで見たことある顔なんだよなぁ……。  つか、ムッチのこと「シュウちゃん」って…………思いっきりムッチの知り合いじゃねぇか。 「お前もいたのかよ、ミノリ」  ムッチが茶髪に溜め息混じりの言葉を返した。  この茶髪、ミノリっつーのか。  女の子みたいな名前だな。似合ってるけど。 「いたって、駐車場に?いたよ。シュウちゃんホント目ェ悪ィよね。いい加減コンタクトしたら?」 「目ん中に物入れんの怖ェんだよ」 「眼鏡は?」 「掛けたら酔った」 「なんだソレ」  ミノリはおかしそうに笑った。  でもムッチは微妙に怒ってる……違うな、こりゃ困ってる顔だ。  予想外の奴に会っちゃってどうしたらいいのかわかんねぇ顔っつーか。 「この人、シュウちゃんの友達?」  いきなりミノリが俺に視線を向けてきた。  唐突過ぎて俺までどうしようだ……。 「ああ、友達」  ムッチが答えると、 「へぇ。シュウちゃんの友達にしては普通だね」  こっち見んなっ。  普通だからってジロジロ見ないでくれっ。  ヘタレな俺は心の中でだけ文句を言って目を逸らした。 「僕の友達にしてはってどういう意味だよ。怖ェ奴等とつるんでるお前と一緒にすんな」 「怖ェのは外見だけだよ。みんないい奴だよ」  ミノリの視線が俺から外れたのを感じて、俺はまたミノリの顔を見た。  やっぱ見たことあるよ、この顔。  コイツもしかして芸能人か?  男の芸能人なんか興味ねぇから断言出来ねぇけど。 「おい、ミノリ」  背後からまた声がして、ミノリがそっちに歩いてく。 「なんだよ、ノブ。俺シュウちゃんと話してんだけど」  俺の横を通り過ぎたミノリをちらっと見送って、俺はムッチを振り返った。 「……友達?」 「いや、弟」  首を後ろに捻ってミノリのほうを見てたムッチが呟くように言った。  ミノリってムッチの弟だったのか。  じゃあ、ミノリの顔に見覚えがあったのは1年前の髭なしムッチに似てたからか?  確かにミノリも美少年だ。  でも……。 「マサヤン、走るぞ」  急にムッチが真顔で俺の顔を見た。  走る? 「え?なんで?」 「いいからっ」  言うが早いかムッチは俺の腕を掴んで走り出そうとした。  その勢いに引っ張られて前に倒れそうになった時、 「シュウちゃーん!」  巨大生物が雄叫びを上げながらムッチの背中に飛び掛かった。 「うおっ」  ムッチの声は聞こえたけど、今俺の目には筋肉の塊しか見えない。  この黒いタンクトップの巨大な背中…………もしかしなくてもあの怖ェ坊主頭だ。  何故かムッチは恐ろしい筋肉坊主に抱き着かれてた。 「離せ馬鹿!ウゼェ!」 「ウゼェってなんだよ!久し振りに会ったのに!絞め落とすぞ!」 「うが……っ、死ぬ……っマジで死ぬ……っ」  俺には坊主の背中しか見えねぇから状況がよくわかんねぇんだけど、ムッチはあの丸太みたいな腕で首を絞められてるらしい。  そりゃ死ぬだろ、冗談抜きで。  つかムッチと坊主、声が……。 「助けてマサヤーン!」  え!?俺!?  そんなこと言われたってこの筋肉野郎からどうやって助けろっつーんだよっ。  オロオロしてたら、坊主がムッチを解放してのっそり俺を振り返った。  めっちゃ怖ェッ。  怖過ぎて金縛り状態だ。  目も逸らせねぇっ 「マサヤン?」  坊主が俺を睨んで聞いてくる。 「そ、そうだけど……」  なんとか頷いたら、突然坊主は白い歯を見せてニコッと笑って、 「修作の弟の武藤志信でっす☆」  可愛く語尾を跳ね上げて、可愛く小首を傾げた。  不気味です。怖いです。  いろんな意味で。  大体《シノブ》って……名前と外見が合ってなさ過ぎるよ……。  ああ、だからミノリは「ノブ」って呼んでたのか。  てか弟!?  こっちがムッチの弟!?  兄貴じゃなくて!?  じゃあミノリは!?  思わず後ろにいるミノリを振り返ったら、 「明の弟の倉原実でっす☆」  ミノリもノブ君と同じように小首を傾げた。  超カワイイーッ。  ノブ君のあとだから。  …………ん?  明の弟?  倉原実……?  グラの弟か!  そうか、それでわかったぞ。  ミノリの顔に見覚えがあったのは、なんとなくグラに似てたからだ。  変な言い方だけど、グラを男っぽくしたような顔なんだよな、ミノリの顔って。  背はグラのが高いけど、顔は少しだけミノリのほうがゴツイっつーか……ノブ君に比べたら全然ゴツくないんだけどね。  ……比べる方が間違ってるか……。  つか、なんなんだよ倉原兄弟。  兄弟揃ってイケメンかよ。  ちょっとムカツクぞ。  その点武藤兄弟は…………声はそっくりだ。  声はそっくりなんだけど、顔も体格も違い過ぎる。  だから、 「……どっちが兄貴かわかんねぇな」 「何言ってんだよマサヤン!どう見たって僕が兄貴だろ!」 「いや……どう見ても……」  俺はちらっとノブ君を見た。  目が合うとノブ君は、 「そうなんだよねぇ。ここ何年か俺が兄貴だと思われることのが多いんだよ。シュウちゃん背ェ伸びねぇから」  俺に向かってニコニコ笑いながら、横にいるムッチの頭にデカイ手を置いて、遠慮なく撫で回す……っつーよりグシャグシャ髪を掻き回してる。  兄弟通り越してパパと息子みたいになってんぞ……。 「あーもーっ、やめろやめろっ」  ムッチは片手で乱暴にノブ君の手を払いのけると、その手を拳にしてノブ君の胸を軽くひとつ叩いた 「お前、まだ喧嘩とかしてんじゃねぇだろうな」  ムッチに睨み上げられたノブ君は、 「現役で。アキラ君とケンジ君が急におとなしくなったから、今俺とミノリがこの辺のカオなの。世代交代ってやつ。自慢じゃねぇけどこの辺で俺等のこと知らねぇ奴いねぇよ」  笑顔のままとんでもねぇことを言った。  リアル青春アミーゴ2号か。  ミノリってそんな強そうには見えねぇけど、グラの弟だしな……。 「へぇ、そりゃスゲェな」  ノブ君の話を聞いてムッチも笑顔になる。  それを見てノブ君はさらにご機嫌になった。 「だろっ?スゲェだろっ?ここの奴等弱ェ奴ばっかっつーか、俺等が強過ぎんのかなー。なんかもう負ける気しなくてさー」 「ふーん。そうなんだー。スゲェスゲェ。ミノリ、お前もこっち来い」  やたらいい笑顔でムッチはミノリを手招きした。 「何?シュウちゃん」 「ちょっと頭出してみ。撫でてやっから」 「いいよ、そんなことしなくても」 「いいから頭出せ。ほら、ノブ。お前もだよ」  ……自分よりデカイ奴等の頭撫でるって……。  体格で負けてる分、こういうとこで兄貴ぶっときたいんかな、ムッチ。  そういえばノブ君とミノリって何歳なんだろう。  弟ってことは中学生……ってことはねぇよな……。  二卵性の双子?  2組も?  そんな偶然あんのかな……。  ムッチに「頭出せ」って言われたノブ君とミノリは顔を見合わせて苦笑いして、ムッチに向かってちょこんと頭を下げた。  次の瞬間、 「このバカチンが!バカチンが!」  ムッチが2人の頭にゲンコツを食らわせた。  ……なんか物凄ェ音したぞ。  ムッチって腕力半端ねぇし、ノブ君もミノリもうずくまって頭抱えちゃってるし…………大丈夫か?  お、ノブ君が立ち上がった。  大丈夫みたいだ。  けど、めっちゃ怒ってないか……? 「いきなり何す……っ」  ノブ君がムッチの胸倉に掴み掛かって全部言い切る前に、ムッチはノブ君の手をあっさり躱してノブ君の顔を横からぶん殴った。  ほんの一瞬の出来事だった。  おいおい……。  か弱いウサギちゃんじゃなかったのかよ、ムッチ……。  つか、巨大筋肉野郎が地面に膝付くってどんなパワーだよ……。 「この辺のカオ?俺等強過ぎ?笑わせんなよ。そんなもんな、自慢にもなんにもなんねぇんだよ。お前等高校生になったんだろ?グラとクリケン見習って少しは大人んなったらどうだ」  ノブ君とミノリを見下ろしてムッチが静かに言う。  うお、ムッチちょっとカッケェ。  なんて暢気に思ってたら、俺達の周りにあのヤバそうな皆さんが集まってきた。  空気がやけに張り詰めてる。  ……スゲェ嫌な雰囲気だ。  皆さん、カオ潰されて黙ってらんねぇって感じだぞ……。  ムッチが強ェのはわかったけど、5、6人はいるヤバげな人達を全員相手になんか出来んのか……?  つか俺どうなっちゃうんだろ……。  ムッチにガン垂れながら唾吐いたりして、黙って待機する皆さん。  不意にその中の1人、ノブ君の斜め後ろにいたスキンヘッドが一歩踏み出した。  ダメだ。  こりゃ確実に俺もボコられる。  ……母ちゃん、先立つ不幸をお許し下さい……。 「よせ。俺の兄貴だ」  地面に片膝を付いたままのノブ君が左腕を横に伸ばしてスキンヘッドを止めた。  ノブ君の言葉でヤバげな皆さんがざわつき出す中、ノブ君はムッチに殴られたほっぺたを撫でながら立ち上がった。 「おー痛ェ。やっぱ強ェや、シュウちゃん」 「弟に負けてたまるかっての」  ムッチは小さく笑ってズボンのポケットに両手を突っ込むと、周りにいるヤバげな人達をぐるっと見回した。 「お前等も無駄に喧嘩すんじゃねぇぞ。あんまはしゃいでっと《ケンジ君とアキラ君》が出動しちゃうからな」 「ウスッ」  ヤバげな皆さんが声を揃えて元気にお返事した。  スゲェよ。  ドラマ観てるみたいだよ。  全然現実味ねぇよ。 「あ、マサヤン。僕が戻るまでコイツ等が悪さしねぇように見張っててやって。じゃ」  いきなりムッチが手を振って、俺に背中を向けた。  ……どういうことですか?武藤さん。 「マーサーヤンッ、仲良くしようねーっ」  ムッチと似た声が耳元で聞こえたかと思ったら、ぶっとい腕が肩を抱いてくる。 「この辺危ねぇから俺等と一緒にいた方がいいよ、マサヤンッ」  言われて振り向いたら、間近に造りモンみたいな顔が……。 「おう、お前等。兄貴の友達のマサヤンだ。挨拶」 「チーッス」  ノブ君の呼び掛けに、皆さんが声を揃えてお辞儀した。  俺に向かって。  なんだコレ。  どうなってんだよ、一体。  なんつーか、未知の惑星に不時着して宇宙人に取り囲まれたような気分だ。  つかヤンキーって体育会系なのか?  それともノブ&ミノリと愉快な仲間達だけが体育会系なのか?  どうでもいいけど、なんでそんな哀れんだ目で俺の体をベタベタ触りまくりますか、ノブ君。 「マサヤン、痩せ過ぎじゃね?ちゃんとメシ食ってんの?病気?」  不安げな表情で俺の顔を覗き込んでノブ君が言う。  すると今度はミノリが俺の腰を両手で掴んできた。 「うわ、ホントだ。もうちょっと肉付けた方がいいよマサヤン。病気?」  何この宇宙人達!  怖ェわ訳わかんねぇわ、頭ん中混乱し過ぎて声も出ねぇよ!  ムッチ、早く帰ってきて!  つか俺病気じゃねぇから!

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