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第8話

 ノブ君とミノリに連れて来られたのは、あの駐車場から歩いて5分くらいのファミレスだった。  ヤバそうな外見の団体が来たことで、ほかのお客さんドン引き。  出迎えてくれた同い年くらいの女の店員さんは俺達を見るなり笑顔が固まるし、席を案内したあとの「ご注文がお決まりになりましたら~」っていうお約束の台詞を言うのにも声が震えちゃってるしで、見ててホントに可哀相だった。  だから、気持ちわかるよって心の中で呟いて笑い掛けてみたら、店員さんは少し安心したのかちょっとだけ泣きそうな顔で笑って引き返してった。  出来ることなら、俺もあの店員さんと一緒にこの場を離れたかった。  いくらムッチの弟とその仲間っつったって怖ェもんは怖ェ。  とりあえず、ノブ君とミノリ以外の連中が、2人の後ろのテーブル席に行ってくれてぶっちゃけほっとした。  ノブ君だけでも怖ェのに、あんな連中と同じテーブルとか落ち着ける訳ねぇし……。 「俺、昔っから喧嘩でシュウちゃんに勝てたことなくてさ」  俺の前で豪快にイチゴパフェを食ってたノブ君が、思い出したように俺を見て微かに笑った。  ドリンクバーから持ってきたアイスコーヒーを一口だけ飲んで動けなくなってた俺は、それだけのことにもビビって背筋を伸ばした。  でもノブ君は俺がビビってることを全く気にするでもなく言葉を繋げる。 「体は俺のがデカくなったし、ほかの奴等と喧嘩しても俺負けたことねぇから、シュウちゃんと喧嘩すんの楽しみにしてたんだけど……シュウちゃん、もう本気で喧嘩する気ねぇみてぇ。パンチに全然力入ってなかったし」  思いっきり殴ってたんじゃねぇのかよ、あれっ。  ってことは、 「ノブ君、わざと膝付いたの?」 「いや、あれはマジ。そんな力入れなくても拳当てれば脳みそ揺れて足がふらつく場所ってのがある訳。俺的には、殴られたことよりシュウちゃん捕まえらんなかったのがショックだよ。やっぱまだ、シュウちゃんには勝てねぇなぁ……」  遠くを眺めて苦笑いしたノブ君は、視線を落として残りのイチゴパフェを食い始める。 「俺もそう。なんで兄ちゃんには勝てねぇんだろうな」  手元に置いた真緑色のメロンソーダを見詰めて呟いたミノリが、唐突に顔を上げて俺を見る。 「俺のが真面目に道場通ってたし、段位だったら俺のが上なんだよ?なのになんでか兄ちゃんに勝てねぇの。スゲェムカツク。マジウゼェよね、アイツ。思わない?マサヤン」  ……そう言われましても……。  俺は曖昧に笑って答えをはぐらかした。  そしたらノブ君が空になったグラスにスプーンを落として、座席の背凭れに上半身を倒しながら口を開く。 「結局さ、俺等はいつまで経っても2番なんだよ。アイツ等いっから」 「俺は絶対ェ兄ちゃん泣かして1番になるけどね」  ノブ君はともかく、ミノリはかなりグラのこと嫌いみたいだな。  けど、兄貴ってそんなに目障りなもんなのか?  俺兄弟いねぇから、その辺よくわかんねぇや。  でも1番になりたいなら、もう1人泣かさなきゃいけねぇ奴がいんだろ。 「クリケン……《ケンジ君》のことは気になんねぇの?前は《アキラ君》と2人でここのカオだったんだろ?《ケンジ君》って」  なんとなく聞いてみたら、 「ケンジ君はラスボスなんだよ」 「そうそう。まず中ボスの兄ちゃんとシュウちゃん倒さねぇとケンちゃんまで辿り着けねぇって感じ」  ……ラスボスだったのかよ、クリケン。  じゃあ1番強ェのはクリケンなのか。 「《ケンジ君》がラスボスってことは、君等今んとこ3番なんだね」 「まあ、そうなるかな……」  言ってみたら、ノブ君は俺から目を逸らして頭を掻いた。  ミノリはというと、 「俺はぶっちゃけケンちゃんとは喧嘩したくねぇなぁ」  独り言みたいに言って背凭れに寄っ掛かって、ぼんやり空中を見上げながら続ける。 「あとシュウちゃんとも。ケンちゃんとシュウちゃんは同じタイプだって兄ちゃん言ってたし」 「同じタイプ?」  意味がわかんなくて聞いてみると、ミノリは俺を見て頷いた。 「うん、そう。あの2人はキレたら止まんねぇって。シュウちゃんのキレ方は知んねぇけど、ケンちゃんはヤバイっつーか……リアルで見た時"キレる"ってこういうののこと言うんだって思ったし。マジで意識吹っ飛んじゃってんの」  意識が吹っ飛ぶ?  どういう状態だ、それ。 「あー、なるほどねぇ」  俺には全くわかんなかったんだけど、ノブ君にはわかったみたいだ。  ノブ君は踏ん反り返ったまま隣のミノリに視線を向けた。 「確かにシュウちゃんもソレっぽいわ。中坊ん時だけど、シュウちゃんにやられた連中に絡まれること結構あってさ。俺も流石にうんざりして、もっかいボコってこいってシュウちゃんに言ったんだよ。そしたら『俺がやったんじゃねぇ。誰かが助けてくれたんだ』とか訳わかんねぇことずっと言っててさ」  そこで一旦話を切ったノブ君は、ミノリのメロンソーダを一気に半分以上飲んでから、今度は俺を見て話を再開させる。 「ドラマとかでよくあんじゃん。気ィ失ってる間に誰かが悪モン倒してくれてて、目が覚めたら周りに大勢倒れてた、みたいなやつ。シュウちゃんが言うにはマジでそんな感じだったんだって。けどシュウちゃんの場合は"誰か"じゃなくて"自分"だったんだけどな」 「……え?それってつまり相手殴り倒した記憶がねぇって事?」 「らしいよ。ムカついたってのは覚えてっけど、そっから先はなんも覚えてねぇっつってた。自分がやったってわかってからは、目の前に人が倒れてんの見て『ああ、やっちゃった』って思ったらしい」  やっちゃったって……そんなことあんのかよ。  いや、あったんだろうけどさ、人殴り倒しといて覚えてねぇってマジ意味不明なんだけど……。 「やっぱケンちゃんと同じだ。ケンちゃんも兄ちゃんに止められて、一瞬『俺何やってんだ?』みたいな顔して呆然としてたから」 「うはー。よく止めたな、アキラ君」 「兄ちゃんくらいだよ、暴走したケンちゃん止められんの」  ビビるノブ君に向かって、ミノリがちょっと自慢げに答えた。  ……そっか。ミノリ、グラのこと嫌いな訳じゃねぇんだ。  いつまで経っても勝てねぇからムカツクんだろうけど、強い兄貴が自慢だったりもすんだろうな。  スゲェ可愛いじゃん、弟。  俺も兄弟欲しかったなぁ。 「まあ、兄ちゃんの場合、ケンちゃんと同じタイプだったからシュウちゃんのこと気に入ったってのもあるみたいだし。基本的に暴走野郎が好きなんだろうね」 「アキラ君って変わってんな」 「変わってるよ。ケンちゃんみたいな爆弾抱えてんのがいいなんてさ。俺は爆弾に火ィつけたくねぇし、兄ちゃんみたいに爆弾処理も出来ねぇし。だからケンちゃんとだけはやりたくねぇの」 「俺もパスしとくわ。シュウちゃんは……俺相手にそこまでブチギレたことねぇってか、高校入ってから喧嘩すんの自体やになったっぽいからなぁ……。カッチ君の影響なんかね」  会話する2人を眺めてたら、急にノブ君の口からカッチの名前が出てきてドキッとした。  カッチの影響ってどういうことだ?  ミノリがどう答えんのか気になって、俺は息を詰めてミノリの言葉を待った。  2人の話をなんとなく聞いてた時より、会話が途切れたこのちょっとした間が無駄に長く感じた。 「カッチ君ねぇ……。なんであんなちゃんとした人が兄ちゃん達と仲良くなったんかマジで謎だよね。つか俺、カッチ君があの馬鹿校にいんのも謎なんだけど。スゲェ頭いいらしいじゃん、カッチ君」 「俺もそれ不思議でさ、カッチ君に聞いたら『家から一番近かったから』っつってた」 「そんだけ!?」 「そんだけ。頭いい奴ってホント何考えてんのかわかんねぇよな」  俺もあの学校で勉強についてけねぇなんてことねぇから全く気にしなかったけど、頭いいってどれくらい頭いいんだ?カッチ。  考えてみりゃ、なんであの学校に入ったかなんて聞いたことなかったな……。 「マサヤンもあの馬鹿校にいんの不思議な感じだよね。なんであんな学校入ったの?」  いきなり、ミノリが俺に話を振ってきた。  なんでって、俺の場合は……、 「最近あの辺に引っ越してきたんだけど、俺の母ちゃんがミーハーでさ。『イケメンの宝庫』って言葉に釣られて勝手に転入決めちゃったっつーか」 「そりゃ災難だったねぇ」  災難なのか?  世間的には馬鹿校って見下されてようが、いい奴も面白い奴も多いし結構楽しいぞ? 「あんまあの学校馬鹿にすんなよ、ミノリ。俺等の学校も似たようなもんじゃねぇか」  ノブ君がミノリの頭を横から小突いて、苦笑いしながら言った。  似たようなもん? 「だったらウチの高校来りゃよかったのに」  言ってみたら、 「男子校無理」  とミノリ。 「3年間野郎だけとかマジ堪えらんねぇ」  とノブ君。  ……2人揃って即答かよ。  でもまあ、ミノリは兄貴が男子校入って苦労したの知ってんだろうし、嫌がんのはしょうがねぇかもな。 「な、マサヤン。ケンジ君ってやっぱ学校でモテモテ?」  唐突に、ノブ君が笑いながら聞いてきた。 「え?《ケンジ君》?《アキラ君》じゃなくて?」 「ケンジ君だよ。ケンジ君ってカッケェし、スゲェ男にモテっからさ。やっぱ学校でもモテてんの?」  確かにカッケェけど、モテてんのか?クリケン。  グラの話しか知らねぇぞ、俺。 「ケンちゃんのモテ方は怖ェよねぇ。ほとんど宗教っつーかさ。ケンちゃんのためならなんでもするって奴マジ多いし」 「俺等ん仲間ん中にもいるしな、ケンジ君の信者」 「いるねぇ。大体、ケンちゃんがスマホ持ってねぇのも、周りの連中がスマホ代わりみたいなもんだから持つ必要ねぇって話だし」  ……なるほどね。  それ聞いて納得した。  クリケンと一緒にいた連中はクリケンの信者か。  でもそれじゃあ、 「《アキラ君》がスマホ持ってねぇのも信者がいるからとか?」 「兄ちゃんは単にスマホ嫌いなだけ。ところ構わず電話掛かってきたりすんのがウゼェんだってさ。つか兄ちゃんは男にモテねぇでしょ。ケンちゃんみたいにカッケェ訳じゃねぇし、あんな顔だし」  さらっと言ってきたミノリに、俺はマジで驚いた。  あんな顔だから男にモテんだろ。  つか君、"あんな顔"と80%くらい同じ顔だぞ。  ……ミノリは兄貴と自分が似てるとは思ってねぇのか……。 「いや、ミノリ。アキラ君は黙ってりゃ女みてぇだし、モテはすんじゃねぇか?」  ナイスタイミングでノブ君が言った。  でもミノリは、 「あんな顔がいいっつーのは女だけだろ。兄ちゃんの顔だけ見て男でもいいとか言う野郎がいたら、ソイツどんだけ飢えてんだよって話」  はっきり言うなぁ、おい……。  じゃあグラに告った奴等や、それから俺や俺の元クラスメイト達は飢えまくりってことか……。 「つか黙ってりゃ女みたいっつってもさ、兄ちゃんは体も中身も男な訳じゃん。だったら普通に女のがいいだろ。野郎だけしかいねぇ世界とかで、どう頑張っても女と関われねぇってんなら顔だけで女の代わりにするってのもわかんねぇでもねぇけどさ」  やけにムキんなって1人で喋り倒してたミノリが、口を閉じて3秒くらい経ってから急に目を見開いて俺をガン見してきた。 「男子校って……全く女と関われねぇ訳じゃねぇよね?」 「それはないよ。大体の奴は放課後とか休みの日にナンパしに行ってるし、合コンしまくってるし、カノジョいる奴もたくさんいるし。ムッチだってこの間までカノジョいたしさ」  真剣な声で聞いてくるミノリに、ついつい俺まで目を見開いて、やたら真面目な声で答えてた。  そしたら、ひとつ小さく息を吐き出して顔の力を抜いたミノリは、 「だよな。そんなもんだよな、普通」  そう言ったあとコップにちょっとだけ残ってたメロンソーダを飲み干すと、空んなったコップを持ったまま立ち上がってドリンクバーのコーナーに歩いてった。  なんとなくミノリを目で追ってたら、 「アイツ、なんだかんだ言ってアキラ君のこと心配なんだよ」  ノブ君の声がしてそっちを見ると、俺と同じようにミノリが歩いてったほうを眺めてたノブ君が俺に視線を移してちょっと笑った。 「心配するほど弱くねぇってのもわかってる癖にな。ホント兄貴のこと好きなんだよ、アイツ。普段からなんかっつーと兄ちゃん兄ちゃんってウゼェくらいだし。マジもういい加減兄貴離れしろっつーか……本気ウゼェ」  いきなりノブ君の眉間に皺が……っ。  地顔からして怖ェのに、そんな顔したら余計怖ェっつのっ。  つか、どこ見てんだ?ノブ君。  俺のほうを向いちゃいるけど、目線は斜め下に落ちてる。 「ミノリと喧嘩すんなよ」  そんなことが言えたのは、間違いなくノブ君と目が合ってなかったからだ。  力一杯ヘタレだからな、俺は。  自慢出来るようなことでもねぇけど。  ノブ君は少し驚いてるみたいな顔でまた俺を見て、一瞬俯いてからミノリがいる辺りに視線を投げた。 「俺のが強ェってとこ見せねぇと、あの馬鹿きっとあのまんまだ」  強さを見せてわからせるって……なんだその野生のルール。  要するに喧嘩する気満々ってことでいいのか?  ノブ君みたいな奴にとっては殴り合いもコミュニケーションの一つなのかもしんねぇけど、ぶっちゃけ理解出来ねぇ世界だな……。 「勝てっかどうかわかんねぇけど……やっぱ中ボス倒さねぇと先に進めねぇようになってんのかもしんねぇな……」  少しだけ目を伏せて、ノブ君はぽつっと呟いた。  中ボスって、ムッチか?  いや、ノブ君がムッチに勝ったってミノリには関係ねぇよな。  …………グラと喧嘩する気か、この筋肉坊主。  あー、ミノリが兄ちゃん兄ちゃん言ってんのがウゼェから、その兄ちゃんより俺のが強ェってミノリに見せたいのか。  小学生かよ。  可愛いじゃねぇかよ、ノブ君。  今更だけどイチゴパフェだしな。  でも、 「ラスボスの暴走止められる中ボスって、強さはラスボスレベルなんじゃねぇの?」  言ってみたら、ノブ君は目をかっぴらいて固まった。  突っ込んじゃマズかったか……? 「じゃあ、まずミノリ泣かす。アキラ君はあと」  ノブ君が真顔で俺を見て、きっぱり言ってきた。  コイツ逃げやがったっ。  てか、こんな筋肉坊主が恐れるってどんだけ強ェんだよ、《ケンジ君とアキラ君》。  それと、 「ノブ君とミノリってどっちが強ェの?」  見た目だけなら当然ノブ君だけど、ミノリは空手の段持ちだろ?  でも2人でこの辺のカオって事は互角ってやつなんかな。  と思って聞いたんだけど、 「俺」  返ってきた声はハモってた。  知らねぇ間にミノリが戻ってきてたんだ。  ミノリはテーブルの横に立ってて、行く時は1個しか持ってなかったメロンソーダのコップを両手に持ってた。  つかまたメロンソーダなのかよ。  ソレ、メロンの味じゃなくてあからさまに化学の味しかしねぇじゃねぇか。色も不自然だし。  化学な色した駄菓子類が好きって、小学生みたいだな。  ミノリもノブ君も『身体は大人、頭脳は子供』みたいな感じで可愛いや。 「ノブ、俺のが強ェっつったらメロンソーダやる」 「俺のが強ェ!ほら、寄越せよメロンソーダ」 「じゃねぇよコラ。ミノリ君のが強いですって言えっつってんの」 「は?俺のが強ェのになんでそんなこと言わなきゃいけねんだよ」 「じゃあコレやんねぇ」  言うなりミノリは右手に持ってたメロンソーダを一気飲みして、コップをテーブルの上に叩き付けた。  あの……コップにヒビ入ってるんですけど……。  叩き付けた衝撃で、じゃなくて、ミノリの握力で。  俺はちょっと自分のコップを掴んでみた。  スンゲェ力一杯握れば割れそうな気もすっけど、あんな簡単には割れねぇだろコレ。  アルミ缶握り潰すってのとは訳が違ェしな。 「あーあ、何やってんだお前。店のモン壊すとか最悪だろ」  ノブ君はミノリが握ったままのコップをちらっと見て、改めてミノリの顔を見上げた。 「店の人に土下座してこい、カス」  そりゃ店のモン壊すのはよくねぇけどさ、何もそこまで……。 「お前が俺に土下座すんのが先だ。弱ェ癖にデケェ口きいてスイマセンってな」  コップから手を離したミノリは、口は笑ってるけど完全に目は据わってた。 「言うねぇ。この際だ、どっちが強ェかはっきりさせっか。あ?」  ノブ君も目を据わらせてそう言いながら立ち上がったかと思ったら、通路に半歩だけ出てミノリの胸倉を掴んだ。  ……なんだよ、この展開は。  なんでいきなり喧嘩始まってんだよ……。  呆気に取られて2人を見てると、近くのテーブル席にいた愉快な仲間達が集まってきた。 「おい、落ち着けよ」  1人が睨み合う2人に声を掛けて、 「とりあえず外出よう。な?ミノリ」  1人がミノリの肩を前から抱いてそのままノブ君から引き離して、 「ノブも。手ェ離せって、ほら」  1人がミノリの胸倉に伸びたノブ君の手首を掴む。 「お騒がせしてすいませーん。なんでもないんですよー。気にしないで下さーい」  と、ノブ君達をガン見してた周りのお客さんや、騒ぎに気付いて様子を見に来た店員さんに愛想よく頭を下げてたのは、意外にもムッチより怖ェ髭面の奴だった。  スキンヘッドが俺のいるテーブルから伝票を取って、さっさとレジに歩いてく。  ノブ君とミノリは止めに入った奴等の手を振り払いながら、みんなと一緒に店の外に出てった。  ……何がどうなってんだよ。  訳わかんねぇよ。 「マサヤン、ごめんね。出るよ」  誰かに声を掛けられて肩を叩かれる。  顔を上げたら、そこにいたのは白に近い短い金髪を逆立てた、眉毛のねぇ奴だった。  目が合うと笑い掛けてくる。  なんだ、いい奴じゃん。  怖ェのは見た目だけみたいだ。 「なんか、慣れてるっぽいね、みんな」  テーブルから離れて、一歩前を歩く眉なしに聞いてみたら、 「アイツ等の喧嘩はしょっちゅうだからね。流石に慣れたよ」  眉なしは俺を振り返って苦笑いした。  釣られて苦笑いしながら俺は眉なしの隣に並んで、歩きながら話を続ける。 「しょっちゅう喧嘩してんだ?あの2人」 「うん。それもスッゲェくだらねぇことで。で、いっつも決着つかねぇの」 「へぇ」 「そのたびにさ、コイツ等馬鹿だなぁって思うんだけど、一緒にいると楽しいんだよね。ノブとミノリはケンジ君とアキラ君みてぇにカッコよかねぇけど、そこがアイツ等のいいとこっつーか。……なーんか近寄れねぇオーラあったからなぁ、ケンジ君とアキラ君には」 「あ、それわかる。2人の世界、みたいなやつだろ?」 「そうそう。来んな触んなって感じでさ、誰も間に入れようとしねぇの。学校でも変わんねぇんだ?ケンジ君とアキラ君」 「2人の周りにいんのは《ケンジ君》の信者くらいかな」 「やっぱり!アキラ君の追っ掛けは?いねぇの?」 「いや、それは……」  追っ掛けっつーか……行き過ぎてボコられた連中なら…………なんて言える訳ねぇ。  第一俺は実際に見た訳じゃねぇし、そんな連中がいたって聞いただけだからなぁ……。  大体、それは1年前の話だし…。  返事に困ってたら眉なしが顔を寄せてきた。 「ソイツ等まとめてアキラ君にボコられた?」  超能力者かコイツは!  ビビって思わず立ち止まって眉なしを凝視したら、眉なしも足を止めてまた苦笑いした。 「俺の知り合いにもいんだよ、アキラ君追っ掛けて、調子乗り過ぎてボコられた奴。つか、ホモじゃねぇけどアキラ君とならヤってみてぇって奴ならゴキブリ並にいんだよな。1匹見付けたら30匹……ってコレ、ミノリには内緒ね。アイツ絶対ェブチギレて全員潰そうとすっから」  そこまでか。  そこまでグラのこと気にしてんのか、ミノリ。  下手したら俺も潰されてたかも……。  つか、 「ゴキブリ並って現在進行形で?《アキラ君》が女の子みたいだった頃までじゃなくて?」 「現在進行形だよ。この辺じゃアキラ君とケンジ君は伝説んなっちゃってっから、今は芸能人とヤりてぇってのと同じ感覚なのかもね」  伝説って……。  マジでグラとクリケンの強さを知りたくなってきた。  つか、グラはこの街から出たほうがいいんじゃねぇのか?  ゴキブリにたかられたらどうすんだよ。  あ、そこでクリケンとミノリと、ムッチもか。  ミノリとムッチがいんならノブ君も参加すんだろうし…………ゴキブリの皆さん、おとなしくしといた方が身のためです。

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