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第16話

 なんだかよくわかんねぇけど、アニメの女の子のお面を被った3人組に拉致られた。  校内で。  放課後、帰り支度をして「テストも終わったしカラオケ行く?」なんてカッチとムッチと話してた時だ。  ほかのクラスの奴が教室にやって来て「先生が呼んでるよ」って俺に声を掛けてきた。  先生に呼ばれたんじゃ行くしかねぇ。  俺はカッチとムッチに軽く謝って教室を出た。  先生ってどの先生?  なんの用とか聞いてる?  って俺を呼びに来た奴に聞いてみたら、ソイツは生活指導主任の名前を言って「用はわかんないけど尾藤連れてこいって言われた」と答えた。  生活指導主任かよ……。  俺、なんか悪いことしたっけか……。  いや、制服もきちんと着てるし、どっかのヤンキーカップルと違って煙草持ち歩いてる訳でもねぇし、校則違反とかは絶対ェしてねぇはずだ。  成績だってテストの点はいつも学年5位以内に入ってる。  大体俺はその生活指導主任から「模範的生徒」って言われたこともある。  模範的生徒、聞こえはいいけど要は手間の掛かんねぇ地味な生徒ってやつだ。  そんな地味な生徒の俺になんの用があるっつーんだ生活指導主任。  とか考えながら、俺を呼びに来た奴のあとをついて行って気付いた。  こっちのほうには生活指導室も職員室もねぇぞ!  つかなんでここ人がいねぇんだ!?  2階の角って何があったっけ!?  なんて思ってるうちに、俺を呼びに来た奴とお面被った連中の計4人に取り囲まれて、近くの教室に連れ込まれた。  という訳だ。  あー、ここって第二生物室か。初めて入ったよ。  つかこの教室自体あんま使われてねぇような……だから廊下に人いなかったのか。  俺は背凭れのねぇ木の椅子に跨がった格好で、窓際の一番前の席からぐるっと教室を見回した。  拉致られはしたけど縛られたりはしてない。  それどころか俺、さっきっからお面トリオ+1にガン無視されてんだけど……。  4人とも俺からスゲェ離れた席に固まって座ってて、俺のほうを見ようともしねぇ。  これなら簡単に逃げられそうな気もするけど、どう考えてもこの状況は謎過ぎるし、ちょっと説明してもらいたい。 「あのー」  俺は4人に声を掛けながら近付いた。  けど俺の声が小さかったのか、話に夢中になっちゃってんのか、4人はやっぱり俺を見ない。 「尾藤ってまゆたその兄貴と友達なんだよな?」  ピンクの頭の女の子のお面を被ってる奴がそう言った。  お面被ってんのに誰が言ったかわかったのは、お面が縁日とかで売られてる子供サイズのやつで、顎まできちんと隠れてなかったからだ。 「これで本当にまゆたそ召喚の儀は執り行えるのか……?」  マユタソ?  さっき「尾藤はマユタソの兄貴と友達」とも言ってたし……まさか、マユタソってカッチの妹の真由ちゃんのことか……? 「……兄貴のほうも召喚するのか……?俺、まゆたその兄貴はちょっと……」  今度はピンク頭の隣の、水色頭のお面した奴が小声で呟いた。  カッチが"ちょっと"なんだっつーんだ? 「あー、ミストだもんなぁ」  深刻そうな声で相槌を打ったのは、俺に背中を向けて座ってるコイツだ。  俺を呼びに来た奴だから声くらい覚えてる。  つか、ミストって?  スプレー的な?それとも有名な鬱映画のことか? 「だよなぁ。アイツ脅したりまゆたそに手ェ出したら俺達ブラッドフォグで地獄に送られるって、絶対」  俺を呼びに来た奴の隣に座ってた紫頭のお面が苦笑いで言った。  ブラッド……?  地獄に送られる?  カッチが中学生の時《白い悪魔》って呼ばれてたのは知ってるけど、高校でもそんなこと言われるほど怖がられてたのか。  ……カッチ、コイツ等に何したんだ?  で、ブラッドなんとかって何?  つかそれより。 「あのー、お話中申し訳ないんすけど」  俺は一番近くの、唯一お面被ってねぇ奴の肩を叩いてみた。  そしたら全員にスゲェビビられて一斉に視線を向けてこられた。  なんだよ……っ。  俺までビビっちゃったじゃねぇか!  いや、ビビってる場合じゃねぇ。  俺はコイツ等に聞かなきゃいけねぇことが……。 「ブラッドなんとかってなんすか?」  …………あれ?  何聞いてんだ俺!  それじゃねぇーっ! 「あ、ああ、ブラッドフォグ?霧谷ミストの必殺技」  ノーお面が微妙に強張った顔で教えてくれた。  キリタニミスト?  ミストって人の名前!?  必殺技!? 「ゲームのキャラクター……?」  多分そうだ。  俺、ゲームやんねぇからよくわかんねぇけど。 「……ゲームもあるけど……原作はラノベだよ。『サクエー』っていう……。アニメにもなってる……」  水色頭が妙にオドオドした声で言ってきた。  そっか。ゲームじゃなくてアニメか。  けど、 「ラノベって何?」 「あたくしが教えて差し上げてよ、お兄様!」  突然立ち上がった紫頭が腰に片手をあてた格好で俺に指を突き付けてきた。 「ラノベとはライトノベルの略称!ラノベは夢と希望が詰まったエンターテイメント小説ですのよ!了解ですこと?お兄様!」 「りょ、了解です……」  勢いに押されて思わずそう言っちゃったけど…………なんでいきなりお嬢様言葉……? 「流石チヤノッ。サイッコーの説明だったわよっ」  ……ピンク頭まで女言葉……? 「うふふっ、ありがとうアイサさん。あたくしの紡ぐメロディ、あなたにも届いたようね」  …………は? 「ステキですぅ、チヤノちゃあん」  水色頭がお祈りするみたいに胸の前で指を組んでうっとり言った。  ……おいおい、水色頭までブッ壊れたのか……?  とりあえずなんか言わないとこの場の空気に弾き飛ばされる……。 「チヤノ君とアイサ君か……。変わった名前だね……」 「いや違う」  紫頭がソッコー俺を振り返った。 「今のは日曜朝に放映されてる幼女に大人気のアニメ『ときめき天使スウィートシスター』略してアマイモ甘い妹でアマイモの春日愛沙と冬木ちやのそして夏井美月だ。シスター達は本当は4人なんだが秋山唯羽のマスクだけ調達出来なかったユイハのヲタ人気は凄まじいからな斯く言う俺もユイハに10月10日だ。まあつまり俺達は彼女等を今ここに召喚したんだよ了解ですこと!?お兄様!」  スゲェ……。  めっちゃ早口だったけどよく舌噛まなかったな……。 「えーっと……じゃあそのお面もアニメのキャラクターで、干し芋が好きなんだ?で、10月10日になんかあんの?」  なんとか聞き取れたとこを繋ぎ合わせて聞いてみたら、4人は俺を凝視して固まって、次の瞬間テーブルの上に頭を寄せ合った。 「……コイツ大丈夫か?」 「……いやほら尾藤だし」 「……噂には聞いてたけど半端ねぇな、天然転校生ミラクル尾藤」 「……いいな、それ。漫画のネタになりそう」  なんだよミラクル尾藤って……。  もしかして聞き間違えたか?  俺、英語のリスニングも苦手だからな……。  干し芋じゃなくて焼き芋だったのか……?  でも、 「……10月10日は合ってる?その日に何があんの?」  因みに10月1日はメガネの日だ。素晴らしい。イッツアワンダフルデー。 「《萌え》だよ《萌え》。くさかんむりに明るいって書くアレ。あの《萌え》って字をバラして《十月十日》」  ちょっと怒ってるような投げやりな感じでピンク頭が言ってきた。  こういう話し方、少し前の俺ならキレてたかもしんねぇけど、グラで大分慣れた。  つかグラのほうが遥かにヒデェし怖ェっつの……。  いや、それより、モエ?  くさかんむりに……ああ、萌え〜ってやつか。メイドさんとかに言う。  その《萌え》って字をバラすんだっけ?  《萌え》……で、10月10日だから……えっと、くさかんむり……十十……日と月……? 「あ!スゲェ!十月十日だ!スゲェ!」  感動した!

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