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第17話

「十月十日って君等が考えたの!?スゲェよ!頭いい!」  マジでスゲェ!と思って話し掛けたら、4人はのっそり頭を上げて俺を振り返った。 「いや、俺達が考えた訳じゃ……」  ボソッとピンク頭が言うと、 「……尾藤君、『サクエー』……『サクリファイス・エージェンシー』知ってる?」  唐突に水色頭がそんなことを聞いてきた。 「ごめん、わかんねぇ。確かラノベ?だよね?それでアニメにもなってるってさっき……」  思い出しながら言ってたら水色頭がテーブルの下からスクバを引っ張り出して、その中から1冊の文庫本を取り出した。  そんで表紙を開いて俺に差し出してくる。 「コレなんだけど……」  そこに描かれてたのは切れ長の目で眼鏡の……。 「カッチだ……!」  マジでビビった。  どう見てもカッチだよコレ。  絵のキャラクターは軍服みたいなの着てっけど、俺達の学校の学ランに見えねぇ事もねぇし……。 「このキャラが霧谷ミスト……。ちょっと加藤君に似てるんだよね……」 「ちょっとどころじゃねぇって!何コレ!カッチがモデル!?」  思わず水色頭の手から文庫本を引ったくってガン見してたら、 「いやいやいや、モデルな訳ないから。でもスゲェ偶然なんだけど、ミストの声優も声低くてさ。加藤ってまんまミストなんだよな」  ノーお面の声がして顔を上げると、 「絶対ブラッドフォグ出せるって、加藤」  ピンク頭が小さく笑いながら言った。  2人共、つか4人全員俺が手に持ってる文庫本を眺めてるから、俺も釣られてまた文庫本に目を落とした。  ……うん、これだけ似てたら確かに出せそうだよな、その必殺技。  つか、マジで似てる……。 「あのさ……コレ、借りてもいい?」  俺は、こっち見て不敵に笑ってるミストを見詰めたままそんなことを言ってた。  だってカッチに似てんだもん☆  ってヤベェ。俺絶対ヤベェッ。 「う、うんっ、いいよっ。でもそれ最新巻だから1巻明日持ってくるねっ。なんならアニメも観る!?俺、DVD持ってるしっ」 「観る」  水色頭の提案に俺は顔を上げて即答した。 「『サクエー』のアニメは原作レイプ酷くて観てらんねぇ。作画はいいけどそのほかはクソだ」  突然つまんなそうに言ったのは紫頭。  片手で頬杖ついて天井に向かって話し続ける。 「ミストと千影やたら絡ませて腐女子にサービスし過ぎなんだよ大体千影って原作じゃ超脇役じゃねぇかよなんであんな出てくんだよありえねぇよ腐女子に人気だからですかそーですか原作無視して腐媚びとかホントやめてほしいよ滅べよ腐女子とクソ監督腐女子はBL見て喜んでろよ巣から出てくんなよ何がチー様だキモイっつーのほかの男キャラにも腐女子に人気の声優使いまくってるしマジでウゼェ」  ……えーっと……なんだって?  チカゲ?が女子に人気で、それから声優が……。 「腐女子はしょうがねんじゃね?アイツ等なんにでも食い付くし」  紫頭に言ったノーお面は苦笑いだった。 「千影よりヒカリの扱いのほうがどうかと思うけどね、俺は。思いっきりショタ要員にされてんじゃん。男のヲタにもピカタン総受けーとか言ってる奴いるし。あれはマジでない。俺的には腐女子よりない」  と、ピンク頭の声も苦笑混じりで、 「腐女子もチーピカとかミスピカとか騒いでるみたいだよね。それは知ってたけど、千影×ミストとかミスト×千影とか言ってる奴もいんの?千影ってミストの2Pカラーみたいなキャラなのに?腐女子って本当妙なこと考えるなぁ……」  水色頭はノーお面とピンク頭を見てウンザリ気味に吐き出した。  あの……彼等は一体何語で喋ってるんですか……?  何言ってんのかさっぱりわかんねぇ……。  とりあえずわかったのは《婦女子》だ。  けどなんでそんな丁寧なんだ?  女に敬意を払ってんのか?  よし、聞いてみよう。 「あのさ、ちょっと悪ィんだけど、なんで《婦女子》なの?」 「腐ってる女子だから」  ピンク頭がつっけんどんに答えてくれた。  答えてはくれたけど…………俺、嫌われてんのかな……。 「尾藤はヲタじゃねんだからそれじゃわかんねぇよ」  ノーお面が苦笑いのまま言って、ちらっと俺に視線を寄越してくる。 「腐女子ってのは女のオタクのことなんだけど、ただのオタクじゃなくて、同性愛者って明言されてない男のキャラ2人に恋愛させたりすんの。要は空想上のホモ好きっつーか。そういうこと考えちゃう自分等って脳みそ腐ってるよねっつって、本人達が自分達のことを《腐った女子》……で、腐女子っつってんの。まあ、自虐ネタみたいなもんだよ」  ……ホモ好き?  男のキャラをくっつけて恋愛させる?  え?じゃあこのカッチに似てるミストってキャラクターもホモにされてんの?  ………………シャレんなんねぇ……。 「俺、この間『サクエー』のゲーム出るって聞いて、ググったら腐女子の絵とかツイートとかがいっぱい引っ掛かってさ……。その中のひとつをうっかり覗いちゃって…………ミストとヒカリの汁まみれホモエロイラスト見ちゃったよ……」  俯いた水色頭が暗い声で呟いた。  ミストとヒカリの汁まみれホモエロイラスト? 「うひー、そりゃキッツイわー」 「災難だったなぁ」 「マジで滅べ腐女子」  ピンク頭とノーお面と紫頭はそう言ったけど…………ごめん、それちょっと……いや、めちゃくちゃ見てぇ。  ググればいいのか?  家帰ったらググろう。  気合い入れてググろう。  けどコイツ等、アニメのこといろいろよく知ってんな。 「あ、君等もしかしてオタク?」  聞いてみたら、4人が俺を見て固まった。 「今更かよ……」  唖然とした声で言ったのはピンク頭。 「普通の奴なら俺等見てすぐオタクーって言うのに……」  そう紫頭が言ったあと、 「これがミラクル尾藤……」 「本物の天然って強烈だね……」  ノーお面と水色頭も唖然と言葉を零した。 「ミラクルとか天然とかやめてくんねぇ?俺そんなんじゃねぇし」  ちょっとムカついて言い捨てたら、4人はまた頭を寄せ合った。 「……自覚なしかよ」 「……幼女と二次元美少女の天然は萌えるけど……男の天然は却下だ」 「……つか本物って怖ェな。天然は二次元だけでいいわ、俺」 「……でも二次元だったら超いいキャラじゃない?ミラクル尾藤」  コソコソ話してっけど丸聞こえだ。 「俺天然じゃねぇから!」 「『天然じゃねぇ』かそれでは何故いつまで経ってもここへ連れて来られた理由を聞かないんだ尾藤」  だから紫頭、お前早口過ぎだっつのっ。  …………ん? 「そうだよ!なんで俺拉致ったんだよ!それになんでお前等お面……ってか真由ちゃんに何しようってんだお前等!」 「遅っ」  4人に同時に言われた。 「遅くねぇよ!ちゃんと説明しろ!」  前にカッチが、学校内にマジで真由ちゃん狙ってる変質者がいるっつってた。  コイツ等か!

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