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童話パロ『白雪姫』(1)
昔々のつい最近。
遠くて近いある国に、毎日鏡と会話をしている若い男のお妃様がおりました。
とは言え、お妃様は精神が病んでいる訳ではありません。
お妃様の鏡は人語を解して自ら言葉を紡ぐ、大変流麗な造りの不思議な鏡だったのです。
因みに鏡はとても正直者で、思ったことを素直に言います。
今日もお妃様は鏡の前に立ち、そこに映った自分を見詰めて鏡に話し掛けました。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
お妃様の姿に取って代わって鏡の表面に現れた鏡の精が答えました。
「俺!」
自我を持つ鏡はナルシストでした。
するとお妃様は、
「うん、確かに君は綺麗だ。でもね、そうなると今ここで俺が鏡を壊せばこの話は『めでたしめでたし』ってことになる」
「終わりにしていんじゃね?アンタだってそんなババ臭ェドレスずっと着てたくないでしょ?」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「あーもー、なんで俺が鏡役なんだよ。どう考えたって王子様だろ俺」
ふて腐れた様子で独りごちる鏡こと倉原実(クラハラ・ミノリ。ミノルではない)に、お妃様こと麻見由理(オミ・ヨシマサ。アサミ・ユリではない)は困ってしまいました。
このままでは話が進みません。
「ここで終わらせちゃうと出番を待ってるほかのみんなに悪いから、『白雪姫です』って答えるだけ答えてもらえないかな」
「……わかったよ」
優しい麻見の笑顔と声に折れ、ミノリは渋々了解しました。
麻見は再びミノリに尋ねました。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
「『白雪姫です』」
ミノリはそっぽを向いてかったるそうな棒読みで答えましたが、それでも麻見は安堵の表情を見せて背後のドアを振り返り、手を打ち鳴らしました。
「入っておいで、猟師さん」
「は、はいっ」
麻見に呼ばれて部屋に入ってきたのは尾藤真也(ビトウ・マサヤ。シンヤではない)です。
しかし尾藤は何故か顔を強張らせ、同じ側の手足を同時に出す奇妙な歩き方をしていました。
「何それマサヤン!超面白ェ!」
登場早々やってくれた尾藤にミノリは大ウケです。
尾藤は立ち止まり、鏡の中で笑い転げるミノリを真っ赤な顔で睨みました。
「笑うなって!まさかこんな役来るなんて思ってなかったから心のズン……ッ準備がまだ出来てなんっないんだよ!」
「めっちゃ噛んでるしっ」
狙ってやっていたのではなく力いっぱい必死な尾藤にミノリは更に大ウケです。
麻見も笑っていましたが、その笑みはミノリと違ってとても柔らかな微笑みでした。
「マサヤン君、リラックスリラックス」
「あ……っ、はいっ、すみませんっ。でも俺っ、今までこんなまともな役やったことなくてっ。学芸会の劇は村人その1とかネズミの群れの中の1匹とかっ、1人で台詞言う役やったことないんですよっ」
「大丈夫、落ち着いて。台詞なんてないようなもんだし、俺だって全く演じてないし。いつも通りで平気だよ」
「は、はいっ」
「じゃあ早速だけど、白雪姫を森へ捨ててきてちょうだい。いいえ、あの子の姿はもう二度と見たくない。殺しておしまい。そしてその証拠にあの子の内臓をここへ持っておいで」
麻見は話を潤滑に進めるため、元から決まっていた台詞を口にしました。
が、尾藤もミノリも麻見をまじまじと見詰めて石像のように動きません。
「あれ?何かおかしかった?」
首を傾げた麻見に、顔の筋肉が固まったままだった尾藤は唇だけを動かして話しました。
「いえ、あの……そんな優しい笑顔で言われると余計怖いって言うか……」
ミノリも尾藤の言葉に賛同し、真顔で何度も頷きます。
「そうか……。ごめん。本当言うと、俺もこういうの慣れてないんだ」
深窓の御令息といった雰囲気の麻見ですが、その照れ笑いにも尾藤やミノリには皆無の品がありました。
それを見て尾藤は、
「俺が猟師ってのもあれだけど、なんでユリさんが悪いお妃様役なんですかね。ユリさんだったら絶対王子様役だと思うんですけど」
「マサヤン!俺!王子様は俺!」
鏡の中で喚き立てるミノリに視線を移し、「そうだよなぁ」と尾藤は呟きました。
「見た目ならミノリも王子様役って感じだよな。ユリさんでもミノリでもねぇんじゃ誰が王子様なんだろう。グラか?いや、グラは王子っつーか……」
独り言を零し続けて個人的な希望を口に出し掛けた尾藤は、ミノリの刺すような視線を感じて慌てて言葉を飲み込みました。
実は、尾藤だけでなく麻見とミノリを含むほかのメンバーも自分以外の配役を知りません。
実際に顔を合わせるまで誰がなんの役なのかわからないのです。
そのせいか、
「白雪姫を始末しに行ってきまーす!」
尾藤は期待に胸を膨らませ、元気一杯部屋を飛び出していきました。
麻見同様、台詞と表情が全く合っていません。
「マサヤン、そこでそんな楽しそうなのは変だって」
案の定、部屋を出ていく尾藤の背中にミノリがツッコミを入れていました。
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