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童話パロ『白雪姫』(4)
「おいおい……どこだよ、7人の小人の家……」
辺りが夕闇に染まり始めても目的の場所を探し出せずにいた加藤は、心身共に疲れ果ててその場に座り込んでしまいました。
ちょうどその時です。
すぐそばの草むらがガサリと音を立て、加藤は瞬時に振り返って立ち上がりました。
「うっわ、白雪姫ってカッチだったのかよ」
草むらから顔を出したのは半笑いの武藤修作(ムトウ・シュウサク)。
その隣に、
「なんて言うか……結構似合ってますよ、先輩」
曖昧に微笑んで、明らかに口から出任せとわかる言葉を発した惣田瑞樹(ソウダ・ミズキ)。
2人共、てっぺんが後ろに垂れた色違いの三角帽子を被っていました。
それを見て加藤は、
「ああ、《小人》か。迎えに来てくれたんだ?」
「そうだよ。なかなか白雪姫来ねぇから、みんなで手分けして探そうってなってさ」
返答する武藤の横では、
「ミズキです。白雪姫発見しました」
惣田がトランシーバーで誰かに報告をしていました。
「……《7人の小人》が無線で連絡取り合ってるって何気にシュールだな」
微かな苦笑を零した加藤ですが、猟師の代わりに猟銃をぶっ放した白雪姫も十分シュールです。
それを知らない武藤は、当然ながら別のことを口にしました。
「しょうがねぇじゃん。ここスマホ使えねぇんだから」
「いや、そういうことじゃなくてな、ムー」
加藤が先刻の自分の言葉の意味を武藤に説明しようとした時、
「早く帰りましょう。完全に日が暮れたら面倒ですよ」
静かな声音で言った惣田が踵を返して歩き出しました。
「確かに、イノシシが出る森だしな……」
加藤が呟くと、武藤は真顔で加藤を見遣りました。
「イノシシもいるのか。俺達昨日から待機してたんだけどさ……夜にオオカミの遠吠え聞こえた」
「ヤベェじゃん……」
「ヤベェんだよ……」
互いの顔を見つめて呆然と呟き合うと、2人は慌てて惣田のあとを追い掛けました。
『森の中の小人の家』ということで絵本に出てくるような可愛らしい小屋を想像していた加藤は、武藤と惣田に連れられてやって来た木造2階建てのログハウス風一軒家を見てとても驚きました。
「イメージと違う……」
唖然と小人の家を見上げていた加藤が呟くと、
「それ僕も思った。けど本物の小人じゃねぇ普通の野郎7人が一緒に住むってなったら、お伽話通りにはいかねっしょ、流石に」
「加藤先輩入れたら8人ですしね」
加藤の両脇に立っていた武藤と惣田が小さく笑って言いました。
「そうだよな。野郎が8人……って、《小人》7人も集まったのか?」
160cmの惣田と172cmの武藤以外で小人役が出来そうな人間に心当たりのなかった加藤は、不思議そうに眉を寄せて武藤に問い掛けました。
「一応ね。とにかく会ってみれば?」
答えた武藤はドアを大きく開いて家の中へと入っていきます。
「行きましょう、先輩。みんな《白雪姫》が来るの待ってますよ」
惣田にも促され、加藤は武藤が開け放していったドアをくぐりました。
「ヤベェ!トシオ最高!」
大笑いで加藤を迎えたのは、武藤・惣田とお揃いの三角帽子を被った森沢悠紀(モリサワ・ユウキ。因みに179cm)と、
「まあ、白いしな。加藤」
三角帽子を被りもせずに鼻で笑う倉原明(クラハラ・アキラ。因みに183cm)。
そして、
「白いったって……ブフォッ」
堪えきれずに吹き出した、三角帽子の武藤志信(ムトウ・シノブ。因みに188cm)でした。
「小人じゃねぇし!!!!!」
そんな自分の大声で俺は目を覚ました。
部屋の外から「ちょっとマサヤ!何朝から大声出してるの!」と母ちゃんの怒る声が聞こえて、今までのが全部夢だったことを理解した。
そりゃ夢ですよねー。
でもいくら夢ったって、ユウキ君とグラとノブ君が《小人》は流石にねぇだろ……。
あれじゃ残りの小人に平子先輩とかもいそうだ……。
えーっと、ムッチ、惣田、グラ、ノブ君、ユウキ君。で、平子先輩入れて6人。
じゃああともう1人の《小人》は…………クリケンか?
もう全然小人じゃねぇし。
白雪姫もなぁ……。
カッチの女装、想像以上にキッツイわ……。
まだユリさんのお妃様のほうがマシだったというか、カッチに比べたらありよりのありだった。
カッチは体温低くそうな蛇顔だけど、ユリさんはほわっとした優しい顔してっからかな……。
つか、ユリさんマジで王子様っぽいし、王子様役っつったら絶対ユリさんだろ。
あの人が王子様じゃねぇなら誰が王子様なんだよ。
鏡と小人にイケメン無駄遣いしてる場合じゃねぇぞ。
誰だよ王子様。
まさか…………俺か?
猟師と二役で俺なのか!?
もう俺でいいだろ!寧ろ俺だろ!俺の夢だぞ!
夢の続き超見てぇ!
よし、二度寝しよう。
「で、夢の続き見れたの?」
横向きに椅子に座った格好でカッチが聞いてくる。
教室入るなり、俺は先に来てたカッチを見つけて夢の話をした。
王子様役の自分を確認するために二度寝した、とは流石に恥ずかしくて言えなかったから、単に「王子様が誰か気になって」ってことにして。
「それがさ、夢も見ないで爆睡しちゃって……」
「あるある」
カッチが俺に同意して、小さく笑った。
こういうのがいい。
こういう何気ない表情にドキドキする。
やっぱ女装はない。
そんなことを思いながらカッチの白過ぎる顔に見惚れてたら、視界の隅に見慣れたヒゲが忍び寄ってきてた。
ムッチは俺と目が合うと、鼻に右手の人差し指を当てて「しーっ」てポーズを取る。
カッチは気付いてない。
俺は笑いをこらえながらムッチにちょっと頷いた。
「ういー!」
「おっわ!なんだよ!」
ムッチに背後から飛び付かれたカッチのめちゃくちゃいいリアクションに、俺は思わず吹いた。
「ビー君知ってたんだろ!教えろよ!」
「ざんねーん。マサヤンは僕の味方なんですー」
「頬ずりすんな!髭キモイんだよ!」
「うっせバーカ!」
笑いながらイチャイチャ……いや、ベタベタ……じゃなくて、じゃれ合ってる2人に、俺の笑顔は固まった。
もうね、よく見る光景だからコレ。
コイツ等しょっちゅうこんなだから。
ムッチは俺に対しても、ほかの奴等にもこうだから。
って、わかってんだけどォ!
ああムッチが羨ましい!
0距離羨ましい!
「ムー、ビー君がドン引きしてるから離れろ」
「あー……ほっといてごめんよマサヤーン!」
ヒゲがこっち来た。
めっちゃ普通に抱きついてくるし!
こういうことがサラッと出来るムッチが羨ましい……!
俺はコミュ力オバケのヒゲにあやかろうと、その体を抱き返した。
カッチが盛大に吹いた。
よし!ウケた!
なんでウケたのかよくわかんねぇけど!
「ちょ……っ、ムッシュとマサヤン、何朝から『感動のワンシーン』みたいになってんだよ!」
「どこから帰還したんだよ!」
「帰還とか……っ!」
教室にいた奴等も爆笑し始めた。
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