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童話パロ『白雪姫』(6)
でも、家に女の人がいたって彼女作らねぇ理由にはならなくないか?
ムッチの親父さんって、今は落ち着いたらしいけど前まで女遊び激しかったんだよな?
で、ムッチは自分のこと、変なとこだけ親父さんと似たとか言ってたような……。
それって、女の好みも似てるとかなんじゃ……。
「もしかしてだけど……ムッチ、その女の人のこと好きになっちゃったとか……?」
だとしたら、そんなこと気軽に俺達になんか話せる訳ねぇ……!
「面白いこと考えんな、ビー君」
俺に顔を向けてきたカッチは感心してるような表情だった。
けど……!
「面白いとか言ってる場合じゃなくね!?もしガチでそうだったらムッチまた親父さんと殴り合いとかしちゃうかもじゃんっ」
「確かに。それならまだアイツがビー君に恋愛感情持ってるってほうが平和でいいよな」
「いや……それは…………違うんだよね?」
「わかんねぇよ?さっきはああ言ったけど、ムーが女遊びやめたのビー君が来てからだし」
真顔で!こっち!見んな!
そんな顔で言われたらそうなんかなって思っちゃうだろ!
いや、でも……ムッチが親父さんと殴り合うようなことになるくらいなら、俺のことをそういう意味で好きでいてくれたほうが……。
だけどそんなことになったら……俺はカッチのことが好きな訳で…………俺達絶対友達のままじゃいられなくなる。
それはやだ。
もしそうならどうにかしねぇと……。
「ごめん、冗談。そんな真剣に考えんなよ」
カッチが苦笑いした。
このメガネ……!
俺の脳内でとんでもねぇプレイの餌食にして今晩のオカズにしてやんぞ!
「ムーんちに女の人が住み始めた時期と、ビー君が転校してきた時期が偶然重なっただけだろ。ムーは家に女連れ込んでも女んちに入り浸るタイプじゃねぇから、前みたいに頻繁に女遊び出来なくなって、代わりに俺達と遊ぶようになったんだと思う。尾藤ワールドのふしぎ発見するためにもね」
「いや俺、そんな発見するほどの不思議持ってねぇし」
苦笑いを返したら、カッチが細い目を頑張って見開いて俺を凝視してきた。
チクショウ。ムカツクけど可愛いじゃねぇか!
「そんな驚くことなくね?」
苦笑いを維持したまま自然に言えた俺、偉い!
本当はニヤニヤしながらカッチにスマホ向けて写真撮りたいし、それを待ち受けにして日がな一日眺めてたい!
「まあ、とりあえず。ムーが手作りの弁当持ってきたら、その人と和解したと思おうよ」
カッチがちょっといたずらっぽく笑った。
いいねいいねその表情!写真撮りてぇ!
…………ん?
「手作りの弁当?」
「毎日メシ作ってもらってんだったら、その人弁当も作りたいんじゃねぇかな。でもムーが学校に弁当持ってきたら、流石に俺達もスルー出来ねぇだろ?」
「あー……。俺絶対ェ『それどうしたの!?』って聞いちゃうわ」
それにムッチが弁当持ってきたら、今まで取られた弁当のおかずの分、おかずを回収してやりたい。
あのヒゲ、俺の弁当からしょっちゅうおかず取ってくからな。
「でもまあ、実際のところはムーが話してくんなきゃわかんねぇんだけどな」
そう言うと、カッチはまたムッチがいるほうに視線を投げて、少し淋しそうに笑った。
……ムッチ、愛されてんだな。
俺になんかあった時もカッチはこんなふうに笑ってくれんのかな……。
そんなことを思いながら、俺もムッチに視線を向けた。
人が集まり過ぎてて、ムッチの声は聞こえるけど姿が見えねぇ!
マジで人気者だなあのヒゲ!
いや、俺もムッチのこと大好きだけど。
俺達だけじゃなくて、グラもムッチのこと大好きだな。
考えてみりゃ、あのクリケンがムッチのこと「シュウ」って呼んでんのも凄くねぇか……?
どんだけだよ……どんだけ愛されてんだよムッチ……。
つか、
「みんなの人気者で継母……ムッチのほうが白雪姫じゃ……?」
「髭面の白雪姫か」
「髭剃れば可愛い顔だし、カッチの女装よりは全然……」
「そんなにヒドかったのかよ、俺の女装」
カッチに視線を戻したら、めっちゃ眉間にシワ寄せてるカッチと目が合った。
「まさかとは思うけど……自分では女装似合うと思ってる……?」
「だって白いし」
「白いけどね」
白いけどキミ、俺よりガタイいいからね。
キミより俺が女装したほうが絶対マシだからね。
……もしカッチと付き合えても抱かれんのはやっぱ俺なのか?
夢ん中ですらヘタレ過ぎてカッチにイノシシ狩ってもらったくらいだしな……。
いや、でも俺もイノシシの解体したし!
実際やれって言われたら無理だと思うけど!
それ言ったらカッチだってあんな手際よく猟銃なんか撃てねぇだろ!
……撃てねぇよな?
「なあ、カッチ」
「何?」
「猟銃撃てる?」
カッチは俺と目を合わせたまま黙り込んだ。
撃てんの!?
つか、見つめ合うと素直にお喋り出来ない……!
ドキドキしちゃうから!マジでドキドキしちゃうから!
ああスゲェ白い!白いなカッチ!やっぱ白いよ!メラニン色素どこ行ったんだよ!
でもカッチ、髪は黒いよな。メラニン全部髪に行ったのか!?そうなのか!?
「尾藤ふしぎ発見」
唐突に、俺を見たままカッチがぽつっと言った。
「え?不思議?」
「発見」
「え?」
「いや、いきなり『猟銃撃てる?』とか、17年間生きてきて初めて聞かれたから」
………………しまった。
カッチには夢の内容大雑把にしか話してなかった。
猟銃のことも話してねぇ。
なのにいきなり「猟銃撃てる?」って、俺めちゃくちゃ変な奴じゃん!
恥ずかしい!めっちゃ恥ずかしい!
「あ、その、夢で!俺が猟師なのにビビってイノシシ撃てないでいたら、カッチが『しょうがねぇな』って代わりに猟銃ぶっ放してイノシシ狩ってくれて!」
「へぇ、スゲェな俺」
「凄かった!マジで凄かった!」
「でも流石にリアルで猟銃は撃てねぇよ。つか撃ったこともねぇし」
「だよねー!」
とりあえず、カッチが普通に答えてくれて助かった……!
「でも、そっか。ビー君の中で俺はそんなスゲェ奴で、《姫》なんだな」
にこっと笑って言われたから、その笑顔に見惚れて一瞬聞き流しそうになった。
……バレてる?いろいろ。
心臓バクバクいって頭真っ白になってきた。
落ち着け俺。
心臓破裂して死にそうだけど今は落ち着くんだ。
今は俺が見た夢の話してるだけだから。
夢には深層心理が関係してるとか、そういうのは今どうでもいいから。
ただの夢の話だから。
そういえば前にグラが、カッチにはいろいろ話さなくても大抵のことが伝わってるから話す必要ねぇ的なこと言ってたっけ。
それにムッチの今現在の家庭の事情とか、実際そうなのかはわかんねぇけど、カッチに言われるとそうなんじゃねぇかなって思えてくるし。つか、思ってるし。
……カッチ怖ェ。
もしかしなくても俺、とんでもねぇ奴好きになっちゃった……?
「ついでに言うと、白雪姫のお妃様は原書だと継母じゃなくて実母なんだよビー君」
「へー、そーなんだー。はじめてしったー」
自動的に口から言葉を垂れ流した自分を褒め称えたい。
とりあえず、バレてたとしてもバレてなかったとしても、今まで以上に気をつけなきゃだ。
俺はまだ、カッチや、それからムッチとの間に築いた関係を壊したくない。
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